6章 出会いと別れ 004

 広場は、様々な色彩が飛び交っていた。
 今日は曲芸師が公演しているせいか、露店もたくさん出ており、賑やかだ。
 ティア、ルイザ。私あの油で揚げたものが食べてみたいわ。行きましょうとか、あの飾りが綺麗だわとか。ティアとルイザはロナに引っ張り回される形で、広場での散策を楽しんでいた。ルイザはそれを結構楽しんでいるようだった。
 ティアは少しうんざりしながら辺りを見回した。そしてティアは広場の中心から人混みを避けるようにして歩く、見知った顔を見つけたのだ。
「ロナ様」
 そしてその見知った人は、何故か十歳くらいの男の子の手を引いていた。
 ティアはそのことを視線で示して主に知らせる。
「あら、叔父様。……案外早かったのね」
 ロナが独り言のように呟いて、彼らに手を振った。
 ござるがそれにすぐ気付き、足早にこちらへと向かってくる。
「おかえりなさい」
 ロナは先程買った眼帯に、田舎娘といった風情で彼らを迎えた。
「首尾は上々でござるよ」
 そう言って姪姫に微笑みかけた後、その子供に視線を向ける。
「ルゥ様。こちらが我が主でござるよ」
 その言葉に反応して、鼻を真っ赤にした少年は顔を上げた。少年の服装はかなり派手で、手には粘着質のある藍色のハンカチがしっかりと握られていた。
「この人が……王女様?」
 ティアは例え相手が子供であろうと手加減などするつもりはなかった。自然と剣の柄に手を遣る。
 だが、ロナは少年の前に屈んで、彼と視線を同じにする。
「そうよ。私がロナ。でもね僕、私が王女様ってことはここだけの秘密よ。約束」
 ロナは少年に小指を差し出し、指切りをする。
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本呑ーます。指切った!」
 子供にとって秘密というのは何だかこそばゆく、わくわくさせるものだ。泣いていたのだろうか、まだ少年の鼻は赤かったが、彼はにっこり笑った。
「ロナ、その子は誰だい?」
「えっと……」
「ボクはルゥと言います。王……ロナ様!」
「ルゥね。もう覚えちゃったわ。彼はこれから私達と旅をする仲間よ」
「へぇ……僕はルイザ」
「こっちの金髪がござるちゃん。それから、黒髪のがティアよ」
 ござるが、やっぱりそうでござるか、と溜め息をついたことにロナは気付かない。
「ロナ様、どうしてそのような子供を?」
 ただでさえルイザとかいう得体のしれない者がいるのだ。主を守るべきティアの声は自然と冷たく、そして棘を含んだものになる。
「んー……ちょっとね」
 ロナの視線のズラし方がいかにもわざとらしい。
 何だか変にイライラする。
「ですが」
 反論しようとして、ござるに止められる。
 あとで。
 ロナの唇がそう綴る。
 声を出した訳ではないが、一応ティアは黙り込む。
「あ、そうそうルゥ? 私のことは様なんてつけたりしちゃ駄目よ。私もあなたも同じなんだから」
「僕と、王女様が同じ……?」
「私だけじゃないわ。そこにいるティアも、ああ……この人は何回言っても様付け止めてくれないんだけどね。ルイザも同じだし。ござるちゃんも同じ……ね?」
「はい。そしたら僕は何と呼べばいいですか?」
「そうねぇ……お姉ちゃん。ロナお姉ちゃんがいいわ」
 現在の王室には一人っ子ばかりが、六人いる。現国王には六人の后がおり、その間に一人ずつ子供を設けていた。
 そしてその中で、ロナの母親に当たる人だけが、既に亡くなっていた。平民の出である母が亡くなり、ロナは僅かにあった後ろ盾をも失った。
「私、弟が欲しかったの……ずっと。だからお姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいわ」
 ロナが微笑むと、どうしてかルゥは嬉しくなる。
「はい、ロナおねぇちゃん」

 ティアには……言うべきかしら。
 叔父様は親戚だし、当事者で知っていたからいいけれど、ティアは……部外者。どうしてこの言葉を思うだけでこんなにも哀しいくなるのだろう。
 でも、彼には知らなくていいことだもの。
 王室の裏事情なんて――

「最後に、観ていく?」
 ロナとも同じ色の金の髪の子供はふるふると首を横に振った。
「いらない。僕はいらない子だから」
「え?」
 一瞬見せた悲しげ表情(かお)が離れない。ロナが何か言う前に、ルゥは言う。
「行こうおねぇちゃん」
 ルゥの小さな手がロナの手を掴む。
「僕おねぇちゃんのこと大好きだから」
 えへっとルゥが笑う。
 数秒前の表情は何だったのだろう。
「ありがとう。私もよ」

あとがき

2011年05月14日
改訂。
2005年09月24日
初筆。

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