37章 紅い瞳の願い 002

 暗闇の中、ただがむしゃらに進んだ。
 どうにかしてこの暗闇から抜け出さないといけない。
 そして、彼と彼女に会って言いたいことがある。
 だが、この暗闇は一向に明ける気配が無く、体力と気力だけが無意味に奪われていく。
 どうしてどうしてどうして。
 あたしはただ会いたいだけなのに。
 無責任に願いを告げたあの人はどこかに消えてしまったし、それ以外にこの暗黒の世界で人をも見かけていない。
「あー」
 少しだけ心細くなって声を出してみる。
 声はどこにも反響せずに、自然に消える。
 その瞬間、右目が耐え難い苦痛に見舞われ、両手で押さえる。
 今までこんな痛みは一度も無かった。
 初めに気がついた時から両目の光は喪われ、それから三年間光のない世界で過ごした。
 別れの時、どうして左の目が再び光を取り戻したのかは分からない。
 サーファがご褒美だと言って、何か魔法を掛けてくれたのだ。
 ふいにその時の彼の言葉が蘇る。
 ――まぁ片方しか無理なんだけどね。君の大事な彼が持っているものがあれば別だけれども。
「大事な、彼……?」
 そんなのティアのことに決まっているじゃないか。どうして今まで忘れていたのか……?
 しかし今はそんなことどうでも良かった。
 ただでさえ纏まらない考えをどうにか寄せ集めて考える。考える。考える――
 そのティアが持っている何か……?
 その疑問に答えが出せないまま、痛みだけは段々と強くなっていた。
 苦痛に顔を歪め、耐え切れずに膝をつく。
 それは、ずきずきと脳内にまで響いてくる痛みだった。耐え難い苦痛は、思考をも奪う。
 だがそれでも必死に考えた。
「……ティアに会わなきゃ」
 彼に言いたいことがある。取り戻せるならその何かを再び手にして――それから。
 だが痛みが引く気配は一切無く、ラムアはそのまま意識を手放した。

「ティア」
 そう呼ばれた気がして振り返る。
「ラムア……さま……?」
 当然そこには誰もいなくて、少しがっかりする。
「ティア? ……どうかした?」
 前を行くルイザは、ティアが足を止めたことを不審に思って問いかける。
「否(いや)、何でもない」
 頭を振ってそう答えたが、何だか釈然としない。
 こう、胸騒ぎのような、ちょっとした違和感のようなものを感じたが、それが一体何のなのかは分からなかった。
「行こう」
「うん……? 何も無いならいいけど」
「あぁ、早くしないと」
「そうだね」
 そう言ってルイザは正面を見据える。
「もうすぐだと思うよ」
 ティアは頷いて、再び一歩踏み出す。
「ロナちゃんも辿りついていればいいんだけど」

あとがき

2013年09月03日
初筆。
どうしても気にくわない部分があったけど何とかなった気がする。良かった…。
……もっとさくさく書けるよう、精進します。

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