31章 行く末 001
「……っ」
ゆっくりと瞼を開けると、高いところに絵が描かれた天井が見えた。
少し遅れて、ずきずきと腹に痛みを感じる。
「ティア……」
先程見た夢を、無意識に反芻して呟く。
とても、リアルな夢だった。
そんな訳ないのに、すぐそこに、ティアがいたような気がする。
少しだけ心があったかくなったような気がして安堵する。
そうして暫く茫として、そして思い出す。
「あ……そっか、私……」
アリアス城に侵入して、目的の箱を見つけたものの、同時に衛兵に見つかってしまったのだ。
「サーファ……大丈夫だったかしら……」
上手く逃げていればいいけれど。
彼の、最後に見た表情(かお)を思い出して息をつく。
そこまで思って、ようやく気付く。
あの時、お腹に刺さったはずの矢はどこに行ったのだろう。
腹部に鈍い痛みは感じるものの、腹に手を遣ってみても、凶器は無い。
ゆつくりと、時間を掛けて身体を起こす。
「ここは……」
どこだろう……。
白い清潔なシーツと緻密な刺繍の美しい掛け布団。適度にスプリングの効いた広い作りのベッド。
そのすぐ近くに、小さなサイドテーブルと飾り棚があり、ベッドから一番遠い所に、小さな扉があった。
室内は、品のある色合いで纏められており、特に気になるものは無い。
そして、少し手狭なその部屋に、見覚えは無く、近くに人の気配もしない。
あの扉の向こうならば、誰かいるのだろうか?
「あの……すみませーん」
動くだけの体力が無くて、ロナは無人の部屋に向かって呼び掛けてみる。
大きな声を出そうと思って腹部に力をいれると、ずきずきと傷口が痛んだ。
「……っ……すみませーん」
痛みを堪えながら、何度か呼び掛けてみたが、一向に反応は返ってこない。
「……」
どうしようかな、と考えるが、あまりいい案は思い付かない。
何気なく俯くと、いつの間にか前開きの服に着替えさせられていたようで、腹の傷は見えなかった。
少しリボンを解いて、腹の状態を確認する。傷は丁寧に手当されており、白い包帯が幾重にも巻かれていた。
「……」
助けてくれたのは誰だろう。
この部屋の住人だろうか?
それにしても、ここはどこだろう。
どうして誰もいないのだろう。
疑問は尽きることなかったが、答えてくれる者はいない。
あとがき
- 2011年08月13日
- 初筆。
ロナ生きててよかったね!