26章 侵入 003
「着きましたよ」
合図をするまで、目を開けないようにと言われて、四人は指示通りに目を閉じていた。
ただ一人、ルイザを除いて。
ルイザは好奇心に駆られ、ラグに許可を得た上で、その一部始終を見ていた。
だがそれは、魔術とは全く違う力であった。
「……っ」
魔術の転移は一瞬だが、これは違った。
短い時間ではあったが、確かに移動していく感覚があり、そしてその間視界に映っていたのは、得体の知れない何か。様々な色彩が、走馬灯のように流れ、この床に描かれた図の周囲を覆っていた。理解出来ないそれを見続けるのは正直、苦痛でしかなく、それなりに鍛えた者でないと、精神に支障をきたしそうだった。
「もう大丈夫ですので、目を開けて下さい」
これは、術者自身の力ではなく、外部の力、つまりは世界自身の要素を、魔術で言うところの魔力へと変換して発動するという。
「どうでした?」
そう言うラグは、あれを見たことがあるのだろうか。
ずっと包帯をしているから、今回は見えなかっただろうが。
「根本的に別物なので、あまり参考にならなかったでしょう?」
「そうだね、……魔術とは全く違うものだということは解ったよ」
「ご理解頂けたようで良かったです」
ラグは、そう言って微笑む。
「さて、始まりの魔術師殿はまだ戻られていないようですね」
「そうなの?」
「はい、そう急がずとも間に合ったようですね」
ラグには、何が見えているのだろうか。
「ここは……?」
「父の、執務室だわ……」
そんなつもりは無かったが、あまりの惨状に、ラムアは震える声でそう呟く。
「……ラムア様」
ティアが綺麗にしたのは、離れにあったラムアの部屋周りだけなのだ。
それ以外の、特に公務に纏(まつ)わる部屋は、酷い有様だ。全焼している部屋もあれば、荒らされたり、遺体がそのままになっている部屋もあるのだ。
「へいき」
殆どの時間をこの場所で過ごしていた、父の骸が無くて良かった。
「時間もあることですし、隻眼の姫君。北の領主のご令嬢である貴女にお願いが、ございます」
「あたし……?」
「はい、お手数ですが、この屋敷を案内しては頂けないでしょうか?」
「それなら、俺が」
ティアが、ラムアの前に進み出て言う。
「隻眼の姫君にこそお願いしたいのです」
ラグは、ティアなど眼中に無いかのように続ける。
「…………いいわ、ティア。貴方も一緒に来て」
少しだけ考えてから、ラムアは答えを出す。
「ですが」
「いいの」
「……分かりました」
有無を言わせぬ強い語調で、ラムアは言った。
「では拙者達は、晩飯の準備でもしておくでござるよ」
「そうだね、僕の……じゃなくて、出発前にいたあの家で待っているから」
「早く帰って来てね」
ルゥは念押しするように言う。
「分かったわ」
ラムアが答え、ティアが頷く。
「ありがとうございます」
ラグは、そう言って頭を下げた。
あとがき
- 2011年07月22日
- 初筆。
概念の話って難しい。