22章 別行動 001

「私は、何をすればいいの?」
 誘拐されてからもずっと付いてくれていた叔父に、ルゥを任せてしまったので、本当に一人になってしまった。
 ルゥには会っていないが、ティアや叔父がいれば大丈夫だろう。
 遠い場所に行かないといけないらしく、彼らは早々に出発してしまった。
 自分だけが、この北の地に取り残されて、毎日暇だ。
 誘拐犯である特殊部隊の隊長さんは、人質を放って、元公爵家の図書室に通っていた。
 だからロナは、こうして彼の傍にやってきては、毎日のように同じ質問を繰り返しているのだ。
「心配されなくても、最初にお伝えした通り、殿下は何もしなくて大丈夫ですよ」
 ロナが質問する度に、彼は読んでいた本から顔を上げ、答えてくれる。
 だが、その答えは到底納得出来るものでは無く、ロナは怒ったように呟く。
「私もティアと一緒に行けば良かった……」
「ダメです」
 すぐさま否定の言葉が返ってきて、少し驚く。
「どうして? ここにいたってすることも無いんだし……」
「ダメです」
 彼はもう一度そう言ってから、ロナに近付く。そして髪を一房取って口付ける。
「一輪の花のように可憐な貴女が、私の傍で着飾っていて下さるだけで、こんなにも私の心は満たされておりますのに」
「な……」
 ロナは顔を赤くする。身を捩(よじ)って、逃げようとするが、その手を掴まれる。
「貴女のいない毎日なんて、想像するだけも胸が苦しくなります」
 紅い瞳が至近距離でロナを見つめる。
「ちょっと……」
 紅いガラス板の奥の黒い瞳が悪戯げに輝く。彼の言葉はどこまでが、本気なのだろうか。
「貴女の不味い料理を食べるのも、あと少しですよ。数日後にはここを出立します」
「え、どこに行くの?」
 彼は微笑んでこう言った。
「今は秘密です」

「あれが異端の」
ふぅん、と木の上から見下ろす影が一つ。
「アタシは、あんなのフツウだと思うんだけどー」
頭に被った三角の帽子をまっすぐに直して、すっと飛び降りる。
その着地は軽く、音もしない。
「でもイロイロ楽しそうよねん?」
けらけら笑って、そしてゆっくりと歩き始めた。

あとがき

2011年07月07日
改訂。
2006年06月01日
初筆。

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