12章 真実 002
ティア達は、町の中で避難場所になっていると思われる場所へと向かっていたのだが、突然ルゥが立ち止まった。
「どうしたの?」
不審に思った二人は振り返る。
「行っても無駄だと思う」
「……は?」
先刻からこの子供はどこかおかしい。
「ロナおねえちゃんはここにはいない。それどころか、ボクらはここに近付かない方がいい」
「何で?」
ラムアに理由を問われる。
「……わからない」
首を振って答える。答えはルゥの中には無いのだ。
「でも、行くならあっち」
ルゥはぴしりと人指し指を伸ばす。
方角は北。
「北に……」
王女はそこにいるのか?
目で問われて大きく頷く。
「確信は」
「絶対!」
にっと口の端を上げる。
だって剣が教えてくれる。
「おにぃちゃん! ええっと……剣の、帯刀の仕方を教えて下さい」
ティアは驚いたような顔で暫くの間硬直した後、俯抜けた声を出した。
「……はい?」
「えーこの剣を ボクにくれたんじゃないの?」
手に馴染む銀の刀身と力を宿す紅(くれない)の結晶。そして鼓動を感じる。
「俺はそんなこと一言も」
言っていないと、そう言おうと思ったのに。
「帯刀の仕方くらいあたしでも知ってるわよ?」
そのラムアの一言はルゥの瞳を輝かせるには充分であった。
「本当!?」
「んーそうねぇ……」
ラムアはルゥの前にしゃがんで検分する。
「ちょっと難しいかもだけど」
何をするつもりなのだろうかと思った瞬間、ラムアは右手のびらびらした袖を、苦戦しながらも根本から破り、白い腕が露になる。
「ラムア様っ!?」
ティアの声も気にせず作業を続ける。
「ほら手どけて」
ベルトをしていなかったルゥの腰に巻き付けて固定する。
「やっぱりぴったりね」
うんうんと一人で頷いてから 、ルゥの持っていたボロ刀をひったくって帯刀させてやる。ボロ刀は多少の威厳を持ってルゥの腰に収まった。
「わぁ、ありがとう!」
フリルがふんだんに使われたお手製のベルトは、華やかなルゥの衣装とよく合っていた。
「ラムア様……どうしてそんなことを」
昔のラムア様はこんな風ではなかったはずだ。否、多少無茶をする性格ではあった……が。
「あたしがしたいと思ったからしたの。悪い?」
「い、いえ」
ティアは何も言えずに黙り込む。
「それにこの服可愛いんだけど、いき過ぎだと思うのよね」
小さくそう呟いてからラムアは肩にかかる金髪を払った。
「ルゥ、あんた案内しなさい」
先刻の言葉に責任を持って。
「はい!」
地面の深い深い奥底に、それは横たわっていた。
それは不幸でもあり、また幸いでもあった。
遠い昔それは、『大いなる禍(わざわい)』と呼ばれ、忌み嫌われてきた 。禁忌を犯したものだけが、それに対峙することが出来たのだ。
そしてそれは今も地中深くに眠り続けていた。時折意識が浮上し、現世に近付く。
それはとても危険な状態――
あとがき
- 2011年06月04日
- 改訂。
- 2005年11月27日
- 初筆。