21章 予兆 001

「ルゥ」
 扉の外から声が掛かる。
「ござるちゃん……?」
 急いで扉を開けて、彼を迎え入れる。
「久しぶりでござるな。元気にしていたでござるか?」
 懐かしいござる口調にルゥは喜ぶ。
「うん! ボクは元気だよ! あ、そうだ師匠ー!」
 二階に上がり、家の中を物色していたルイザを呼ぶ。
「師匠……でござるか?」
「うん、魔法のね。覚えてるでしょ? ルイザおね……」
「そう呼ぶなと言っておいたはずだけど?」
 いつの間に隣に来たのか、ルイザは綺麗な銀髪を掻き上げる。
「ルイザ殿……?」
「久しぶりですね。……ティアに許してもらったのでね」
 どこか居心地が悪そうに、軽く頭を下げてそう言った。
「そうだったでござるか……」
「ござるー、ロナおねぇちゃんは?」
 足元にしがみついて、訊ねる。
「サーファ殿と一緒にいるでござるよ」
 そう微笑んで答える。
「元気?」
「そうでござるなぁ……、病気も怪我もしていないでござるよ」
 サーファは、丁重に扱ってくれたし、刺客に襲われたりもしたが、彼が守ってくれた。
 だから、それは全て真実だ。……ただ、精神的にはどうだろうか。
 時折見せる表情は何か思い詰めた感じがする。
「そっか……」
 じゃあ、どうして泣いていたのだろう。
 何だか訊くのが躊躇われて、ルゥはそのまま黙り込む。
「兄……いえ、そのサーファ・スティアスは……?」
「我々は彼とは違う任務でござるよ」
 ふと、表情を鋭くして言う。
「任務ー?」
「サーファ殿より……お願いと言った方がいいでござるか」
 我々に、死術の根源を突き止め欲しい、と――そう、ござるは言った。

 そういえば……と、歩き出してから思い至る。
 ラムア様。俺は、貴女も守れなかった――
 守ると誓ったのに。
「……すみません」
「ん? 何か言った?」
 もう一度立ち止まって振り返った拍子に、金の髪が背中で弾んだ。
「いえ……手を」
 繋いでもよろしいでしょうか、と。
「手?」
 言葉数が足りない。
 思ったことを伝えるには、どう言えばいいのだろうか。
 分からずにそっとラムアの手に触れる。
 人の温かさが欲しい――
「ティア……?」
 胸がドキドキして、全身の温度が一気に上がったみたいだ。
「ど、どうしたの……急に?」
 嬉しくてたまらないのだが、熱でもあるんじゃないかと、つい疑ってしまいたくなる。
「行きましょう」
 穏やかな声で主を促す。
 手は繋いだままだ。
「え、ええ……?」
 よく分からないが、繋いだ手以外、ティアはいつも通りのように見える。

 どうして、彼女だけに罰を求めたのか。
 どうして……。
 彼女よりも彼女を守れなかったことの方が、取り返しのつかないことだったのに――
 空いた一方の手に問う。
 だが、答えは分からない。

あとがき

2011年07月04日
改訂。
2006年05月17日
初筆。
物語は動き出す。
ティアから見た、ラムアとロナの違い(?

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