異なる者 64章〜愚かな〜
「テレクテックオ ウトガリア」
ルイザにはわからない言葉。
一言二言話した後、緑の瞳がこちらに向けられる。
送ってくれた男は、馬に鞭を入れて閉ざされた村へと帰っていく。
「来れるのはここまでみたいね」
「ティアもルゥもこんな状態だし…今日はこの辺りで休もうか」
彼らの回復を待たねばならない。
「そうね」
彼女はルイザの考えてることなんてわからないだろう。
「ティアも早く元気になるといいんだけどね?」
ラムアはしゃがんで、ティアの黒い前髪をいじっている。
「ルゥは疲れたって?」
その瞳はとても優しい。
「ん…まだ小さいからね」
ルゥは泣き疲れて、そのまま眠ってしまったのだった。
その全てが、何だか、遠いことのように感じる。
頭がぼうっとして、気分がすぐれない。
「ルイザ」
短く呼ばれる。
それすらも遠い。
「…ごめん」
定まらない視点で、そう言った。
――泣いても…いい?、と。
泣き出しそうに歪んだ表情はそう言っていた。
* * *
わ、私食べ物を探してくるわ、と逃げるようにあの場を後にして来てしまった。
そんなつもりはなかったのだけど。
多分泣いてるところなんて、あんまり見られたいものじゃないだろうし。
「んん…食べ物…」
きょろきょろと辺りを見て回るが、食べられそうな物は無い。
「全部お菓子でできていればいいのに」
何気無く呟いて、ラムアは森の奥へと進み入る。
時刻は宵闇で、武器も持たない少女一人には危険極まりない。
ガサリと茂みが音を立て、反射的にラムアはそちらを振り返る。
「サーファ……スティアス!」
彼が訪れるのは、いつも気まぐれだ。
ただ、今日は少し様子が違う気がした。
左肩から腕にかけて、包帯を巻いているし、あまり元気が無いようにも見える。
「それ…どうしたの?」
近付いていって訊ねる。
「あぁ…ちょっとね」
ちらっと視線をやっただけで、彼は望む答えを提示してはくれない。
「それより僕の姫? 君は、今日契約をしただろう?」
「え…? …ええ」
どうして知っているのだろうかと思う。
「馬鹿なことはするものではないよ」
いつになく、その語調は厳しい。
彼は、つかつかとラムアに歩み寄り、そして強引に手近にあった木に押し付ける。
「な…に…」
抵抗する間もなく、冷たい感触が唇に押しつけられる。
「やだ……サー…ファ…」
その力はとても強くて、引き剥がすことなんか出来ない。
あの、別れた日みたいだ。
「や……なし…て…」
息が苦しくて、喘ぐ。
何度か息継ぎを繰り返して、ようやくサーファは唇を離す。
ラムアは怯えた瞳を向けていた。
「すまない…」
彼は謝り、そして今度は優しく抱き締めた。
「…サーファ…?」
いつもと違う彼の様子に、どうしていいのかわからずに、ラムアは立ち尽くす。
ただ、彼から伝わってくる体温が温かい。
「…ルディ……僕の愚妹はいるだろうか?」
彼は一息ついてからラムアの耳元で、吐息に乗せて忌々しげに言い捨てた。
2006.3.6
*あとがき*
兄ちゃんは大胆です(笑
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