16章 二つのキセキ 001
「っーかさー、ティア?」
腕を組んで厳しい顔付きでルイザが言う。
「ルゥは北って言っていただろう?」
「ああ」
「僕達が離れてから、全く北に進めていないよ?」
「……は?」
「どういう意味?」
やっぱり気付いてないか、と溜め息をついて言う。
「大分西にズレてる」
「僕達はこんなところを通ってないしね」
ルゥを振り返る。
ルゥは右手で錆びた剣に手を添え、しゃがんで左手で、土を掴んでいた。
「どうかしたルゥ?」
「何か……ここよくない」
どうやら土を調べているらしい。
「そうだね」
きりきりと頭が痛む。
何が悪いのかは全く分からなかったが、でもここは嫌いだ。
「よくないって……何が?」
ラムアの声が森に響く。
「たまにあるんだよね」
「何が」
ティアには分からない。ただ少し身体が重い。
「自然に魔力が働く場所が」
ルイザは事もなげに微笑んだ。
「だからね、魔法の適性が皆無の……否、魔力に反発すらあるティアは、魔力の圧に耐えられなくなって体調を崩した」
「だが、今は何とも……」
「そりゃそうじゃん。何しろ、僕が圧を取り除いてあげたからね」
「へ、へぇ、あれってそんな魔法だったのね」
「だからルゥも心配することない……」
そう言って視線を落とす。
「ししょー……」
紅い石の嵌った錆び刀が、ガタガタと震えていた。
ルゥが落ち着けようと、しっかりとそれを抱く。
「その剣は……?」
「魔剣」
ルイザの問いに、ティアが答える。
「魔剣イチゴショート。持ち主がいなくなったから、俺が預かっていた。ルゥがそれを気に入ったから、貸……あげた」
「紅の貴石(きせき)に銀の軌跡(きせき)。二つの奇跡を孕(はら)んだ魔剣……イチゴショート……?」
口から滑り出る言葉は、古くからの言い伝えである。
ルイザはルゥの隣にしゃがんで、その細くて白い指で紅い貴石を撫でる。
「二つの奇跡は、新たな奇跡を呼ぶ」
そっと言葉を続けた。
「スゴい。やっぱり僕が見込んだ通りだったんだね。きっとこの剣はルゥに使われる為に、ここにある」
ルイザは感嘆の溜め息を漏らす。
「まさか」
「ボクに使われるため……?」
もう一方の手でルゥの頭を撫でてやる。
「そうだよ。剣の一本一本に、適した使い手っていうのがいるんだ。魔法使いでいう、魔法の属性と同じようにね。ねぇ、ティア?」
「ああ」
ティアは信じられないと言った顔でルゥを見る。
「じゃあ……どうして、どうしてこの剣は震えているの……?」
「使い手には分かるはずだよ」
「……」
「……推測だけど、今回は、この場所の発する魔力と剣の持つ魔力が反発しあってるってところだろうね。暫くしたら治まるよ」
彼女は手を離して、立ち上がる。
ルゥは名残惜しそうにルイザを見上げた。
「みんな、今日はもう休もう」
ちりと緑と黒の視線が交わる。
まだ日は高かったけれど、ルイザの言葉に従うことにした。
あとがき
- 2011年06月18日
- 改訂。
- 2005年12月31日
- 初筆。
二つのキセキは、咄嗟の思いつきながらいいと思う。 色々話に絡めそう。