20章 罰 002
兄は幼い頃から、どこか人と違っていた。
「お兄ちゃん! 今日は何のご本なの?」
兄はまるで本が友達だと言わんばかりに、暇をみつけては書籍を読み漁っていた。
「ルディには、言っても分からないだろう?」
「そーだけど……」
むう、とふくれっ面をしていると、兄が頭を撫でてくれた。
その手は優しくて、とても温かい。
「ルディもやるー」
まだ、字も読めないのに、兄の隣で、絵のいっぱい入った本を開けて、兄の真似をするのだ。
黒い髪の少女は、いつも兄の後ろをついて回っていた。
そしてそんな妹を、同じく黒い髪の少年は、厭いもせずにとても可愛がったのだ。
――合わせて……くれたんだ。
兄さんの力は、とても強くて安心する。
その優しい手が、頭を撫でてくれた気がして、そっと目を開ける。
「……あ、起きた?」
目を開けてすぐに見たのは、ルゥが家事に勤(いそ)しむ姿である。
「……何してるの?」
「何ってご飯の用意だよ? お腹空いたでしょ?」
「うん、まぁ」
返事をしてから辺りを見回す。
薄く黒ずんだ白い壁に、ところどころクモの巣も張っている天井。それから、寝ているのは簡素な作りのベットだ。少し離れたところは、たくさん埃を被っている。
どうしてこんな所にいるのだろう。
ルゥの他に誰もいない。
「……ルゥ」
少し不安になって名前を呼ぶ。
「ん?」
ルゥが振り返る。
「みんなは……?」
そう訊いたはずなのに、上手く声が出なかった。
「僕がいるよ」
そっと、抱き締められる。
「女の子は簡単に涙を見せちゃダメなんだよ」
ルゥの腕の中で、こくりと息を呑む。
服越しにルゥの鼓動が伝わってきて、とても安心する。ルゥがその小さな手で頭を撫でてくれる。
「……うん」
ルイザはルゥの腕の中でようやく、泣いた。
心の中に溜っていたものが、そっと溢れた―――
「ティア……戻りましょう」
「……はい」
王女はあっという間にティアの前からいなくなってしまった。
どこか、遠いところに鈍い痛みを感じる気がする。
「……ラムア様」
「どうかした?」
先を歩いていたラムアがティアを振り返る。
「もし、貴女が王女と同じ立場なら、俺を罰しますか……?」
ティアは俯いていて、その表情は読めない。
だけど、ラムアは言う。
「……しないわ、あたしも」
うーんっと腕を伸ばして伸びをする。
「でも、そうね……毎日、荷物持ちとかくらいならさせるかもね」
くすくす笑ってラムアは言う。
「ラムア様……」
どうやらティアの強張っていた表情も緩んだようだ。
「それにしてもお腹空かない? ティア、何か作ってよ」
昔一緒に遊んだ場所に、変わらない主。
少し、昔に戻ったようだ。
「はい、ラムア様」
しっかりとそう返事する。
ラムアも嬉しくなって笑顔を見せる。
――へぇ、張り合うんだ。
まぁ負ける気は無いけど。
君を喪うのは一度で十分だ――
あとがき
- 2011年07月02日
- 改訂。
- 2006年04月20日
- 初筆。
時間間隔が分かりづらい。