39章 魔剣 003
短い時間ではあったが、ティアがルゥの剣の練習に付き合っていると、ござるが転移の術の準備完了を知らせに来てくれた。
ティアは一度小屋の方に引き返し、ラムアに暫しの別れを告げると、ラグの元へと一人で向かう。目的地は、ティアのとって馴染みの深い場所だ。
案内はいいからと、自分が離れる間、ラムア様についておいてもらうよう、ござるに頼んだ。
その途中、ルイザが一人でいたので、連れて行く。
「……奴は?」
歩きながら問いかけた声に、一テンポ遅れて返事が返ってきた。
「…………お兄ちゃんのこと? お兄ちゃんなら」
ルイザは少しだけ鼻を赤くしていたが、鈍感なティアが気付くはずもなく、笑ってごまかす。
「暫くお別れだって」
一度だけ、ルイザの方を見た後、視線を進行方向に戻す。
「ふぅん」
ティアとルイザは、今からラジェンに行くのだ。残ったメンバーは、おそらく別の任務があるのだろう。
だから、暫くのお別れ――それだけだ。
大好きな彼女と、知り合ったばかりの新しい主を助ける為――つまりは、世界を救う為に、自分に出来ることをする。
魔法の事や世界の事は分からないが、失いたくないものを守る為、ティアにはどうすればいいか皆目見当もつかない。だが、あの胡散臭い白髪の少年――ラグはその方法を知っている。だから今は彼に従うのが一番良いのだろう。
そのラグが待っているのは、ゼアノス公爵家、つまりラムアの生家である屋敷の大広間である。
ルイザの生家からは少し離れていたが、それぞれの出身地なので迷わず、目的地へはすぐに辿り着いた。
「お待ちしておりました」
朽ちた扉をくぐって、広間に入る。
ここでは、いつもダンスパーティーが催されていた。ラムアのダンスの相手はいつも自分だった。
それがとても誇らしくて、好きでもないダンスを一生懸命練習した。
だが今、その過去の栄光は見る影もなく、屋敷は瓦礫と化している。手触りの良い絨毯は焼け焦げ、木彫りの彫刻が美しかった椅子やテーブルなどは真っ黒でもう元のように機能することは無いし、全ての窓にかかっていた重厚なカーテンは燃えたり風化したりして、上の方しか残っていない。
その光景に、ティアは知らず、胸元の首飾りを服の上から握り締める。
「準備は?」
ルイザが問いかけ、ラグは落ち着いた声で答える。
「首尾は上々ですよ」
ラグは、これから二人に与える任務について簡単に説明をしてから、彼らを床に描いた陣の上に誘導する。
「では、行きましょうか?」
移動中は目を閉じているように言われ、今度はルイザもおとなしくそれに従う。それが、好奇心から自分を守るということだ。
「……あぁ」
「行こう」
かくして、ティアとルイザは、ラグの不思議な術によって、南の地ラジェンへと辿り着いたのであった。
魔法に詳しいルイザであっても、ラグの術は未だ理解できない。魔法では無いと言っていたが、魔力の気配がしないということ以外は、魔法とほぼ同等の力に感じる。
兄なら、解るのだろうか。
それとも……。
あとがき
- 2015年03月04日
- 初筆。
やっと出発。