34章 闇色の後悔 002
その日初めて外に出かけた少女は、広大な草原に転がっていた。
風が頬を撫で、その長い金色の髪を舞い上げる。
その傍らには、少女と同じ髪の色をした女性が、少女と同じように、草原に転がり、微笑んで空を見上げた。
「いい天気ー……」
少し眩しくって、女性は目元を手で覆い、幸せな溜め息をついた。
「散歩なんてしていて、大丈夫なんですの?」
傍らに立つ男を見上げ、女は微笑んだ。
「あそこは息が詰まる」
その表情は逆光になっていて、全く見えない。
女はクスクスと笑いながら、提案する。
「では、お昼にしましょうか?」
女は起き上がって、隣に置いていたバスケットを開けた。
その美味しそうな匂いに誘われ、小さな少女は飛び起きる。
「お手伝いするのー」
「じゃ、このお皿をお父様に持って行ってくれるかしら?」
「はーい」
まだ幼い少女は両手で、大きいお皿をしっかり掴んで、ゆっくりと、父の元へと歩いて行く。
男は、その場に腰を下ろして、少女からお皿を受け取った。
「今日は、ハムサンドとフルーツサンドを作ってみましたの。……お口に合うかしら?」
女はおどけてそう言う。少女が二人の間に座って、今にもよだれが垂れそうなな顔で、目の前に置かれたお皿を見ていた。
「ふふ、もう食べてもいいわよ」
少女の顔が喜びに包まれ、そのサンドイッチにかぶり付く。
「いただきます!!」
その様子を少しの間二人で眺めてから、大人二人もサンドイッチをかじる。
「美味しい?」
「うん」
ガツガツとサンドイッチを口いっぱいに頬張り、少女は何度も頷く。
「喉を詰まらせるぞ」
男が少し心配そうに注意した瞬間、少女は目を白黒させて苦しんだ。
「ほら、お茶を飲みなさい」
女はポットに入れた紅茶を小さなカップに入れて差し出した。
男はどうしていいか分からずただオロオロするばかりだ。
少女は息が出来なくて顔を真っ赤にして、母にお茶を飲ませて貰う。
げほげほと苦しんでむせこむ娘の姿を横目に、女は笑って言う。
「背中を擦(さす)ってあげるといいんですわ」
「わ、分かった」
男は、力を入れ過ぎないように気をつけながら、ぎこちなく娘の背を擦った。
「げほげほげほげほげほげほげほげほげほ」
暫く苦しんだ後、少女の色違いの瞳には涙が浮かんでいた。
「もう平気?」
女は、笑いを堪えながらそう訊ねた。
「……う、うん」
少女はどうにか平静を取り戻し、両親を見上げた。
「本当に大丈夫なのか?」
男は不安げに問う。
少女はうんうんと何度も頷き、男は少しだけ安心したようだった。
「今度は、ゆっくり良く噛んで食べること」
「ゆっくりよくかんでたべる」
少女は自分に言い聞かせるようにして復唱する。
「分かったら、もう食べてもいいわよ」
その言葉を合図に、少女は再びサンドイッチを囓った。
少女が今度は喉を詰まらせないことを確認してから、傍らの二人も同様にサンドイッチを口に運ぶ。
「美味いな」
心の底からそう思って、男はそっと呟く。
女は、娘の頭を撫でながら、微笑んで答えた。
「気に入って頂けて光栄ですわ」
あとがき
- 2013年05月30日
- 初筆。
このシーン書くの何度諦めたことか……。
何故か分からないけど、とても難しかった。