23章 光と影の夢 001
右半身に感じていた程良い重さが無くなり、ルイザは読んでいた本から顔を上げた。
「あ、起きたんだ。おはよう」
馬車が止まる前から、うとうととしていたルゥが目を覚ます。
「あれ……おにぃちゃん達は……?」
「買い物だよ。ルゥは熟睡してたから、先に行って貰ったんだ」
「そうなんだ」
そう言いながら、ルゥは大きな欠伸をする。
「うん、ルゥも行く?」
「ん、何を買うの?」
「ここから先は暫く大きな街は無いみたいだから、保存食と酒を買うって。水は腐っちゃうからあまり多くは持てないからね」
そうなんだぁと、ルゥは眠い目を擦った。
「あと、東は暑いらしいから、それ用の着替えと……」
「へぇ、東って暑いんだぁ。ボク、そっちの方には行ったことが無いから楽しみだな」
「何でも乾いた土地だから、あまり肌を出さないほうがいいみたいだよ」
「え? そうなの? いっぱい服を着たら暑そうだけどなぁ……」
「僕らからしたらそうだけどね、この辺りで一式買い揃えてから行く人も多いみたいだよ」
「ふーん、変なの」
ルゥは不思議そうにそう言った。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「うん、分かった。行く」
ルゥは、立ち上がって、ルイザに手を差し出す。
ルイザは少しだけ驚いた顔をして、その手を取る。
そして、手を繋いで、馬車から降りる。
汚れた衣服の裾を洗おうと思って、ロナは 川の縁(へり)に近付いた。
「うーん……カタブツね」
ぶつぶつと独り言を呟く。
その言葉の意味があんまり分かっていないのはロナだけの秘密である。
「まぁ、ティアよりは口数も多いし、って……ヒャ……っ」
川の近くの石がぬるぬるしているなんて知らなかったロナは、体勢が上手く立て直せずに、ざぶんと川の中に落ちてしまった。
頭から冷たい水を被って、ひどくびっくりする。
「……っ」
元々濡れていたとはいえ、すっかり水浸しになってしまった。だが、尻餅をついただけで、特に外傷は無かったのは運がいいと言えるだろう。
そう思って立ち上がろうとした瞬間、両手をついた地面ががくんと下がった気がした。
「…………っ!?」
直後、水の中に引き込まれるような感覚を感じ、あっと思う間に、呼吸が出来なくなる。髪と服とが、水を吸ってすごく重く感じた。
それでも必死に、口や鼻の中に水が入らないように息を止め、光の射す方に向かってもがく。すぐそこに新鮮な空気があるのに、すごく遠くに感じる。
「…………ナ…………!!」
遠く、何かが聴こえる。
でも、何と言ってるのかは分からない。
段々と意識が遠のき、ゆっくりと地の底に堕ちていくような感覚に囚われる。
もう、息は苦しくない。
ただ、助かったんだとは思わなかったし、思えなかった――
あとがき
- 2011年07月10日
- 改訂。
- 2006年06月12日
- 初筆。
とあるCPに自己満足(笑)