38章 お別れ 002
ござるが先頭を歩き、ラグをゼアノス公爵家の大広間に案内する。
ラグよりも数日間多く滞在していたござるに、ラグは転移の術に使えそうな広い場所を訊いてきたのだ。
この辺りは、元々家財道具が少なかったからなのか、あまり焼けてはおらず、損傷も少ない。端の方に崩れた柱や壁などの残骸が少しあるだけで、充分に広い空間があった。ラグは、比較的瓦礫の少ない広間に着くとすぐに鞄から道具を取り出し、床に円陣を描き始めた。
それを確認した後、ルゥとござるは手持ち無沙汰に入り口の近くの瓦礫に腰を下ろした。
少しの間物思いに沈んでいたが、ござるは躊躇いがちに、ルゥの方を見遣る。
「ルゥ」
「なぁに、ござるちゃん?」
ルゥはラグの手元をじっと見つめながら、視線を上げずに答えた。
「先程の……」
「…………あぁ、ボクがこの国の王子様ってこと?」
ござるは自然と両手を膝の上で組み替えて、言葉を発す。
「そうでござる。ルゥは、その」
「さっきは驚いたんだけどね、でも」
両親や姉とは違う紫色の瞳が、いたずらに輝く。
「……ボクはボクのやるべきことを理解したよ」
「え……」
「ねぇ、ござるちゃん? ボクはね、ロナおねぇちゃんも、ルイザおねぇちゃんも、ティアおにぃちゃんも、サーファおにぃちゃんも、ラムアおねぇちゃんも、団長達もみんな、みーんなが幸せだと嬉しいなぁ」
そう言って顔を上げるとえへへと笑って、ルゥはぴょいっと立ち上がる。
そして、片足を支柱にしてくるりとその場で一回転した。
「だからね、ボクは、ボクにしか出来ない事をするよ」
その言葉は案外強い調子だったが、それはそれ以上言及させないという強い意志の表れでもあった。
「……ルゥ」
ござるは何も言えずに、口ごもる。
「早くロナおねぇちゃんに会いたいね」
ぽつりと零したその言葉は本心なのだろう。
「そう……でござるな……」
ござるは、その言葉をもう一度呟いて、ラグの方を見遣る。
ラグは、顔料のようなもので、床に図形を描いていたが、その動きは迷いがなく、彼自身の特性を思い起こさせる。
彼のことは、陛下より幾らか聞いていたが、それでもいざ本人を前にすると不思議な気分になる。
「目隠しをしているのによくあんなに細かい図形を描けるでござるなぁ」
その言葉にルゥが笑う。
「ボクだったら絶対ぐにゃぐにゃになっちゃうなぁ」
ござるはつられて笑う。
「全てが上手くいけばいいんでござるが……」
今度は言葉にならないほど小さな声でそう呟く。
あとがき
- 2014年08月28日
- 初筆。
やっと少し進められました……。ここからラストスパートです。