約束
――これは全てが終わった後、春の陽気に誘われたとある二人の小さな恋のお話。
「……あのさ、ルゥ」
「んー?」
あんまりにも天気が良くて、うとうとしかかっていたルゥは顔を上げる。
「前から気になっていたんだけど」
「なぁに?」
「その、」
「ん?」
ルゥの紫色の瞳にルイザが映っていた。
「あの、どうして僕なの?」
「何が?」
「その、お妃だなんてガラじゃないし……」
ルイザは瞳を伏せてこう言う。
「もっと可愛い女の子なら沢山いるでしょう?」
その様子がいじらしくて、ルゥは思わず吹き出しそうになったが、笑いを噛み殺して言う。
「ルイザ……おねぇちゃんは可愛いよ?」
本心からそう思っていたが、ルイザは中々信じてくれない。
「嘘」
「ホントだよ!」
ルゥは、椅子から立ち上がって向かいに座っていたルイザの方に近付く。
この城に来てから彼女は髪を染めることを止め、少し伸ばしている。
ルゥはそっとその真っ直ぐな黒髪に手を伸ばし、優しく触れる。
ルイザは少しだけ照れたように視線を落とした。
「ルイザはとても可愛い」
耳元でそっと囁くと、ルイザは慌てて立ち上がる。
「ルゥ! からかわないで」
そう怒るルイザは、耳が赤くなっていてとても可愛い。
「からかってなんかないよ」
ルゥはルイザを見上げる。
元々身長の高いルイザの身長には全然追いつかない。
ルゥはくすりと笑ってこう言う。
「一目惚れだよ」
ルイザの黒い瞳が見開き、一瞬遅れて後ろに後退(じさ)る。
その拍子に椅子が倒れて大きな音が鳴る。
「うえ、ごめん」
ルイザは慌てて椅子を起こそうとその場に屈んだ。
「多分ね。ボクの中ではルイザが一番可愛い女の子だよ」
ルイザは掴んだ椅子を勢い良く落として、思わずルゥは吹き出した。
「ルイザ可愛い」
「ひゃ、や、やめてよルゥ!」
ルゥはルイザの手を取り、両手で包み込む。勿論ルイザの方が手が大きいので、上手く握れない。
「ねぇ、ルイザはボクのこと好き?」
ルゥはルイザと同じ目線の高さで小首を傾げた。
ルイザは恥ずかしさのあまり逃げようとしたが、手を掴まれているので、思い通りに動けない。
「……ルゥ」
困ったようにルイザは呟いたが、ルゥはにこにこしているだけで、手を離してくれそうに無い。
「ね、ボクのこと好き?」
ルゥはもう一度訊ねた。
大きな紫色の瞳が、僕を映す。
「う」
子供の方が、体温が高いというが、今はきっと僕の方が体温が高いに違いない。
「好き?」
「…………」
多分、いや絶対、耳まで赤くなってる……。
ルイザは観念して小さく頷いた。
何て恥ずかしんだ。これは。
「えぇ? 何て?」
「……!!」
ルゥは、絶対見てたくせに……! 知らないフリをするなんて!!
「ルゥ!」
「ボクのこと好き?」
ぎゅっと握る手に力を込めて、ルゥはもう一度小首を傾げた。
「………………………………す、き」
それは本当に聞こえないくらい小さな声だったけど、握られた手が緩んで、ホッとしたのも束の間――
「ひゃ」
ルゥが飛びついて来て、ルイザは床に頭をぶつけた。
「……っ」
目の前に星が飛んでいた気がしたが、ルゥの軽い体重が自分の上に乗っかっていることに気付いて、ルイザは慌てる。
「ちょ……ルゥ!!」
着慣れないドレスの裾がめくれていたし、何よりこの体勢は。
「ルイザだーいすき!!」
ルゥはルイザの首に抱きついて、その小さな顔を、ルイザの頬に寄せる。
「……ルゥ」
すりすりと頬を寄せるルゥは本当に可愛い。
ルゥが、自分の事を可愛いと言ってくれるのは嬉しいけれど、とても恥ずかしい。
「ルゥの方が可愛いよ……」
本心からそう言うと、ルゥは顔を離して、少しだけむくれる。
「ルイザには、かっこいいって言って欲しいな」
吐息が掛かりそうなほど近くで、そんなことを言うルゥが愛おしくって、ルイザは手を伸ばす。
その手が、ルゥの小さな肩を抱き締め、そっと言葉を漏らす。
「もっと大きくなったらね」
「……それは、大きくなるまで一緒にいてくれるってこと?」
ルイザは予想もしなかったその言葉に驚き、そして視線を逸らす。
「……そうだよ」
少し伸びた黒髪が、床に扇型を描いていた。
「ふふ、約束だよ」
その扇に金色が混じる。
こつりとおでこがぶつかり、黒と紫の視線がすぐ近くで交差する。
「……うん、約束」
あとがき
- 2012/07/11
-
ルゥが押し倒した、よ。
積極的な小悪魔ルゥが好きです。
ルイザより女の子らしい子は、「異なる者」の中で他にいただろうか。
男と間違えたティアは本当に阿呆だ。(ロナは騙されやすそうな性格だから仕方ない)