11章 再会 004
紅い瞳が印象的な男だった。
「貴方は……」
「僕と共においで下さい。異端のロナ殿下、そして叔父貴殿」
ロナの前に跪いて、手を差し出す。
「貴様は」
「勿論お命を頂こうとなどは考えてはおりません。言うなれば人質、そんなところでしょうか」
ござるの言葉を遮り、彼は続けた。その口元は皮肉げに笑んでいる。
「……断れば……」
慎重に問う。
「この者が鮮血を吹くだけですよ、殿下」
彼は背後に視線を遣る。そこには男が二人。一方は先程まで話していた団長で、両手を拘束され、動くことは出来ない。もう一人は使い込まれた白銀の長剣を手にし、その刃先を団長の喉元へ正確に突きつけている。
「それと、まだ死んでいない子供が血に濡れるでしょう」
彼の部下は優秀だ。まだ一人も殺してはいない。少し赤い染料を水で溶いたものを被ってはもらったが、すぐにはバレていないだろう。
ロナは、すぐに決断した。
「……分かりました。貴方に付いて行きます。だから、誰にも手出しはしないで!貴方にも誰にも人の幸せを奪う権利はありません」
隠されていない、青の瞳に炎の色が入り込む。
「立派な心構えですね」
小さくそう呟く。
その瞳は血の紅(あか)。
「では参りましょう」
彼は立ち上がって剣を納めた。
――ティア……。
差し出された手をとってロナは血のような印象の男について行った。
「忘却(ガルディラ)」
小さく呟く声は火に呑まれた。
「それと、水舞(ラディトゥル)」
男は微かに嗤(わら)っていた。
「おとーさま」
まだ五歳にも満たない少女は廊下を走って最奥の部屋へと辿り着く。
部屋にはまだ若さを失っていない男と綺麗な金の髪をした女性、それから数人の人間がいた。
「席を外せ」
男は照れたように微笑んで、家臣達に命じた。
「おとーさまはまだおしごとー?」
二つの属性を持った娘の問いに、男は残念そうに言う。
「最近忙しくてな。お前に構ってやれなくて寂しいよ」
「わたしはだいじょーぶだよー。わたし、おとーさまのおかたたたいてあげるー」
にこにこと笑って、父親の後ろに回った。
そしてトントンとテンポ良く両手を動かした。
「そうか、ありがとうな」
ルビーのような美しい紅い瞳を持つ女性は、男の隣で幸せそうに微笑んでいた。
こんな日がいつまでも続けばいいのに。
ずっと続いていたらよかったのに――
いつから変わってしまったのだろうか――?
今はもう――
何ヲ頼ッテ生キレバイイ?
あとがき
- 2011年06月02日
- 改訂。
- 2005年11月21日
- 初筆。