7章 因縁001
宿屋で宛てがわれた部屋は二つ。三人部屋と二人部屋である。
ロナ以外は全員男だと思われる。
「部屋割りはどうするんだい?」
何故か仕切っているのは自称リーダーのロナではなく、いつの間にか旅仲間になりきっているルイザである。
どうして王女は何も言わないのか。
「ロナちゃんは誰が同室でもいい?」
「もちろんいいわ」
「そう。じゃあ……ロナちゃんと同じ部屋がいい人は、僕と……」
はいっという威勢のいいのが一番年下のルゥだ。
「じゃあ二対三で決定」
パチパチとルゥとルイザ、そしてロナが拍手をする。
「待て」
「なあにティアくん?」
子供はまだしも、得体の知れない奴と主が同室というのは放っておく訳にはいかない。
「ロナ様。俺は貴方の護衛です。俺の側から離れないで下さい」
それではまるで告白である。だがティアがそんなことに気付くはずがない。そして少し嬉しそうにロナが頬を赤らめたことにも当然気付かない。
「そ、そうね」
そしてちらりとルイザの方を見て考える。
「じゃあ……ティアとルイザが私と同室。叔父様はルゥと一緒でいい?」
「拙者に異存はないでござるよ」
「僕はござるちゃんも好きだよー」
何と言っても彼は優しい。特に子供や動物には。
そういえば、ござると言われてもへこまなくなってきたのは大進歩である。
「じゃあ決まり! 私は少し疲れたから寝るわ。ティア、ご飯が食べたくなったら起こして。私も一緒に行くから」
「御意」
ロナは大きな欠伸をして三人部屋に入っていった。ティアは何も言わずにその後へと続く。
「ござるちゃん行こー」
ルゥはござるに肩車をせがむ。
いいでござるよ、とか言いながら彼らは二人部屋に入っていった。
一人その場に取り残された美しい人はくすりと息で笑う。
「ばっかみたい……」
肩にかかる長い髪を払って、毒づく。
「でもまぁそこがいいんだけどさ」
どうやら彼は気付いていないらしい。それはそれで愉しいことこの上ない。
その美しい人は、妖艶に微笑むと三人部屋に入っていった。
すっかり夜も更けた頃、一人の男が、ある娘のもとを訪れる。
黒い装束に身を包んだその娘は、本来目のあるべきところに包帯を巻き付け、豊かな黄金(きん)の髪を長く伸ばしていた。
「ふふっ僕の綺麗な姫。もうすぐ君の願いを叶えてあげられそうだね」
男はその長い髪を一房取って口づける。
ティア、そう彼女の唇が動くのを確認して、男はその唇を己のそれで塞いだ。
だが、後に娘が満足気に口の端を上げたことを、男は知らない。
それは血の味。強い憎しみの味――
憎しみ程、強いものは何もない。
憎しみこそ最上の力に他ならない。
あとがき
- 2011年05月15日
- 改訂。
- 2005年09月27日
- 初筆。