27章 表裏一体 003
「ルゥ、それ取って」
「うん」
三人は、ルイザの生家に戻り、六人分の食事の用意をしていた。
「井戸から水を汲んで来たでござるよ」
「あ、ありがとう」
食材はラグがたくさん持たせてくれたし、調理道具等は一通り揃っている。
ラグが提供した食材には、見たことの無い色の野菜や、変な形の果物等があって面白かった。
「ティア達はいつ戻って来るかな?」
「屋敷は広いから、もう暫くはかかるかもしれないでござるなぁ」
ティア達と合流するまでの数日、この近くで過ごしていたござるが言う。
「ボクお腹空いたな……」
窯の中から、パンの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
「そうだね、じゃあ食器も準備しとこうか」
「うん」
「そうでござるな」
ルイザは、鍋の火を止め、窯の様子を確認する。
ルゥとござるは、朽ちかけた棚から食器を取り出し、先程汲んできた水で洗う。
ルゥが皿を受け取り、水気を拭こうとした瞬間、頭を強く殴られた時のような衝撃を受け、思わず皿を取り落とす。
「……!」
派手な音がして皿が割れる。
「……な……に」
だが、その次の瞬間、脳裏に閃くのは、混じりっ気のない紅色。
ただ、それだけだった。
なのに、ルゥは瞳を見開き、震える声で叫んだ。
「おねぇちゃん……っ」
怖くて、怖くて。
「ルゥ?」
周りにいた二人が皿の割れる音に驚いて、振り返る。
「どうしたんでござるか?」
ルゥは魔剣を握り締め、ガタガタと震えていた。
「……おねぇちゃんは……サーファおにぃちゃんと……一緒なんだよね?」
何とか絞りだすようにして問うた。不安そうに訊ねる声には、何か、緊迫した気配が含まれているようだ。
「そうでござるが……」
詳細は知らない。
ルイザは、ルゥの瞳を見つめたまま考え込む。
まただ。
ルゥは知ってるんだ。
離れた場所にいる、今の王女を――
「おねぇちゃんが……死んじゃう……っ」
涙ぐんだ紫の瞳が、助けを求める。
「何言って……」
「血が……ぶわって……っ。おねぇちゃんが……」
ルゥは嘘をつかない。
こんなにも必死に、冗談では済まされないような嘘をつくなど、もっての他だ。
「ロナは今どこにいるでござるか!?」
強く、肩を掴んで問う。
「遠く……場所は知らない」
分からないのではなく、地名を知らないのだ。
「おねぇちゃんを……助けて……っ」
ガタガタ震える。
ロナと一緒にいるはずの兄の姿を思い浮かべる。
「……兄さんと話せればいいんだけど……」
だが、その手段は、今無い。
「…………」
ご褒美に、魔法を一つ教えましょう。
これは、遠くに離れていても会話が出来る魔法です。
急に思い出される 会話の数々。
「……魔法!」
「え?」
「サーファのおにぃちゃんと話せるの!」
そんな魔法があるのか……?
ルゥはまくしたてるように、早口で話す。
「困った時に使いなさいって」
多分。
「そんな魔法、初めてだ」
驚きと、同時にそれ以外の気持ちが入り混じる。
何か、他にも言われた気がするけども。今はいい。
目を閉じて、気持ちを落ち着け、一心に願う。
どうか無事で、と。
「伝播(トゥリア)サーファ・スティアス!」
言葉は呪文になる。
そして呪文は道へ――
あとがき
- 2011年07月25日
- 改訂。
魔女っ子ルゥたん。
ほのぼの要素を追加してみた。
そろそろストックがなくなってきました。
これが以前公開していた最新話ですが、途中順番を入れ替えているので、一応まだ続きはあります。
今後の展開が悩む…。 - 2006年09月13日
- 初筆。