25章 砂の中の花 001
そこは砂と岩石ばかりが広がる世界だった。
前を見ても、後ろを見ても、全て岩とか、そういった類のもので、生き物の気配はあまり無い。
「全く、変な所だね」
「まぁ、我々から見ればそうでござるな」
「じゃあ、人はどこに住んでるの?」
「地下でしょう。この分じゃ」
先程から、パタパタと両手で仰いでいるのだが、一向に涼しくなりもしない。
「そうだろうね。こんなあっつい地上で生活なんてしていたら、すぐに干からびちゃうからね」
「ホント暑いわね……」
北で生まれ育った人間にはこの暑さはかなり堪える。
馬車がすぐ近くまで出ていて本当に助かった。
心底そう思って、また一歩踏み出す。
「ルイザ」
先を歩いていたティアの、短く呼ぶ声がする。
「何? どうかした?」
ティアの傍の大きな岩の裏をひょっこり覗くと、階段があった。
石造りのそれはまっすぐに、地下へと伸びている。
「降りようか」
口元を微笑ませてそう告げる。
「下は涼しいといいんだけど」
「美味しいご飯はあるかなぁ」
朽ち果てた大古の自然。
人々は地上を捨て、地下へと移り住む。
……何だか、わくわくするじゃないか。
「ござるちゃん、お城にここのことはどれくらい伝わっている?」
ルイザが問いかける。
「そうでござるな……」
ござるとて、国内の、特には東の方の地理情報にはあまり詳しい方ではないのだけれども、迷うことなく、こう話す。
まず、一人の長がいる。
その長の言うことは何であろうと、絶対だ。
民は長を敬愛し、そして長もまた民のことを一番に考える。
そこまではいい。
「だが風変わりなのは、その長の選出方法でござるよ」
「風変わり?」
一同は、訝しげに眉根を寄せる。
気付いたときには新しい長なのだ、と。
前の長のことなど民は覚えてはいない。
不可思議極まりないこの事実だけが唯一、この地方の情報なのだ。
長い長い階段は、洞窟のように奥に伸びていた。その通路は細く、少しカビ臭かった。
ボク疲れたと、弱音を吐くのは一番小さなルゥである。
「もう少しだよ。我慢して」
励ますつもりで言ったが、決して嘘をついている訳では無い。
なぜなら先刻、風の流れが変わったからである。
「人がいるのかは知らないけどね、開けた場所に出るのは確かだ」
そう告げたルイザの言葉が本当になったのは、事実、すぐ後のことだった。
「花…………」
感嘆の息と共に言葉が零(こぼ)れた。
砂と岩だらけの場所で、彼らを出迎えたのは絢爛豪華な、様々な色彩達だった――
深い地下の、深い森を抜けたところに社がある。
目指すのはそこだと、魔剣が教えてくれた。
「一番奥だよ」
ルゥがみんなに伝える。
「早いとこ終わらせま……」
「皆様、お初にお目にかかります」
唐突に、どこからともなく声が掛かる。
「誰だ」
ティアが低い声で短く問う。と同時に腰の剣に手を遣り、いつでも抜けるようにする。
「貴方方に手を出す程間抜けではございません」
ふっと気配が現れる。
いつの間にいたのか、ティアの前には少年が一人。
嫌でも、両目を覆う包帯が目につく。
「名前はラグ。この地方の長をしております」
柔らかく微笑んで礼をする。
魔剣は大人しくしていた。
あとがき
- 2011年07月16日
- 改訂。
- 2006年06月12日
- 初筆。