39章 魔剣 001

「あのね、剣の使い方を教えて欲しいんだ」
 そう言って微笑んだのはルゥで、ティアは驚きもせずに問うた。
「何故だ?」
「なぜって、勿論、世界を救う為だよ?」
 ルゥはおどけたようにそう言った。
「最低限、持ち方と振るい方が知りたいな」
「……」
「そんな怖い顔しないで、危ないことはしないから」
 ルゥは冗談めかしてそう言ったが、ティアには聞こえていない。
 肝心のティアはちらりとラムアの方を見、そして結論を出す。
「分かった」
「ありがとう、ティアおにぃちゃん」
 にこりと微笑んでルゥは紅い石の嵌った魔剣を差し出す。
「外に出よう」
 ティアはそのボロ刀を受け取り、促す。
「うん」
 ルゥが、先に扉の方へ歩き出す。
 ティアは一度だけラムアの手をぎゅうっと握って、立ち上がる。
 ルゥの真意は分からなかったが、既に次の任務が与えられているティアに考えてる暇は無い。

「ルゥ」
 肩までの金髪が跳ねる。
「お前はこの剣に選ばれた」
 ラグとござるは、ルゥのことを王子だと言った。それが本当かは分からなかったが、一つ分かるのはティアはこの剣には選ばれず、ルゥが選ばれたということだけだ。
「俺は魔法を使えない。だから、この剣の正しい使い方は教えられない」
 ティアは右手でそのボロ刀を掴み、身体の前に差し出す。
 カチャリと金属の音がする。
「だが、この剣は使用者を選ぶ魔剣だ」
 対峙するルゥの紫色の瞳は蠱惑的に輝く。
「だからきっと本来の力は、お前にとって必要な時に、この剣はお前の力になるだろう」
「力……」
「そうだ。それがどういったものかは俺にはよく分からないが、この剣の前の使用者はこれを大剣として扱っていた」
 ティアはロナと旅し始めてすぐに対峙した敵のことを思い出していた。
「大剣に……」
 そういえばそいつらは王女に言われて、町外れの森に葬ったのだったか……。
 そんなこと初めてしたのだが、王女にとっては普通のことなのだろうか。
 王女は彼らを埋葬した後、祈りを捧げていた。
 ティアはそれをただ見ていただけだったが、王女はそれを強要したりはしなかった。

「……あぁ。そうだ、これだけは伝えておかねばならない」
 ルゥはこくりと頷いて続きを促す。
「魔剣には力の拠り所となる場所が必ずある。この剣は、この中央の紅い石だ」
 ティアが反対の手でその石を指し示す。
「力の拠り所は、魔剣にとっては弱点でもある。だから、この剣を使う場合は、必ずこの紅い石に触れていなければならない」
 だから、あの時ティアは使用者の隙をつき、紅い石に触れた手を薙ぎ払ったのだ。
「だが、適合者で無い者が触れていても力は発現しない」
 そう言って、ティアはその錆びた刀を身体の前で構える。
 ルゥは少し場所を移動し、手元が良く見える位置に移った。
「俺はこの剣は使えない」
 一度だけ振るうと、ティアはルゥにそれを返した。
「ボクは使えると思う?」
 ルゥがそれを受け取り、ティアは自分の剣を構えた。
「分からない。だが……」
 ルゥと出会った町で……その時の事は、ティア自身がラムア様に再会した衝撃のあまり、殆ど覚えてはいなかったが、だけれども、確かに一戦逃げ延びている。
 ほぼ戦闘不能状態だったティアと一緒だったはずなのに、ルゥは怪我を負っていなかった。
 正しくその力を使えた訳ではないだろうが、それでも――
「お前は選ばれたんだ」
 きっとそれだけは間違いがない。
 ルゥは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに微笑む。
「こういうのは多分、ルイザが詳しいから今度教えて貰うといい」
「うん、そうだね」
 はにかんだルゥは、魔剣イチゴショートを強く握り締めた。

あとがき

2014年08月28日
初筆。
ティアとルゥって案外仲良しだよね。

本編クリックで開閉

短編クリックで開閉

漫画クリックで開閉

その他クリックで開閉

拍手する