13章 仲直り 004
「あ、そうそうルゥ。えっと、何だっけ名前……ハ……ハ」
「ハルジ?」
「そう! ハルジさんがルゥのこと心配していたよ?」
「本当?」
紫の、くりっとした目がルイザを見上げる。
「うん。ちょっと軍に混じって情報を貰ったんだけど」
「一座のみんなは無事!?」
「みーんな無事。安心していいよ」
時に、ルイザの微笑みは見る者に安心感を与える。
「ありがとう」
今度はルゥの方から抱きついた。
「いえいえ。あ、その代わり案内宜しくね? そうだルゥが無事だって伝える?」
「……出来るの?」
「もっちろん!」
「お願いします」
ルゥはぺこりと頭を下げる。
「りょーかい」
にっと口の端を上げる。
両手を空にかざして、こう唱える。
呪文は一言。
「息吹(ハールーン)」
――ルゥは無事です。みんなに宜しくとお伝え下さい。
短いけれど、確かにそう伝える。
何もなかったはずの空間に、白い鳩が生まれ落ちる。
それが一度だけ二人の上を旋回して、パタパタと飛び去っていった。
「よし、完了!」
「ルイザってスゴいねー。魔法使えていいなぁ」
「魔法使いたいの?」
ルゥはこくりと頷く。
「教えてあげようか?」
「えっ?」
ルゥの瞳がきらきらと輝く。
「まぁ適性があればだけどね。ティアは全然適性なかったからねー」
あははっと笑ってルイザは言う。
「んー何がいいかな。水系でいく? 治癒とか転移とかは難しいし。炎は危ないし」
「水系?」
きょとんとした表情が可愛らしい。
「ん、そう。簡単なやつなら……意識を集中させて降水(セラフィー)って唱えてみ。自分は絶対できるっていう自信を忘れちゃいけないよ」
「分かりました先生!」
勢いよくそう言ったら、ルイザは照れたような、はにかんだ笑顔を見せてくれる。
意識を集中させて、自信を持って――
今まで休むことなく歩いていた足を止める。
緊張の糸がぴんと張った瞬間に、定められた言葉を紡ぐ。
「降水(セラフィー)!」
さて、どんなものか。
それなりに適性のある者ならば、花に水を遣るくらいはできる。もし適性が皆無ならば、何も起こらな――
「わっ」
雨?
大量の雨粒が全身に叩きつけられる。
違う……これは――
「蒸発(ルーティン)!」
力の反発によって魔力を抑制する。
「……っ」
全身がぐしょぐしょだった。
「……ルゥ?」
辺りを見回す。
「大丈夫?」
ルゥは近くの木に背中を預け、肩で激しく息をしていた。
「……ハァ ……ハァ」
今までに感じたことのない絶大なる疲労感に襲われる。
「魔法発動時の圧に身体がついていっていない」
「……ハァ……は……ぃ」
ルゥ。
君は魔力を持ちすぎているよ。
それはいっそ魔的で、人に畏怖を抱かせる。
ルイザはルゥの額に優しく手を添える。
「休眠(チェリール)」
今はお休み。
小さな魔物ちゃん。
あとがき
- 2011年06月10日
- 改訂。
- 2005年12月14日
- 初筆。