30章 憎しみの行き着く先の夢 001

「ねぇ、ティア!」
 そこらに咲くどんな花よりも、彼女は綺麗で可愛い。
 足を止めて。
 振り返って。
 そしていたずらな笑みを浮かべて。
「ほらっ」
 ぎゅっと強く握った右手を差し出し、そうっと開く。
「お母様がね、昨日くれたの。あたしが結婚するときに、あなたと共にあると嬉しいわって」
 ラムアは頬を桃色に染めて話す。
 その小さな手の中にあったのは小さな銀のリングだ。
「指輪、ですか?」
 ラムアの結婚相手は、婚約者であるティアだ。
 親同士が決めたことではあったが、二人共それが当然のことだと思っていた。
 そのティアが、指輪を手に取る。
「世界の色……」
 澄んでいて、それでいて奥行きのある深い蒼に、心を吸われるようだった。
「世界の?」
「あ……、はい」
 ラムアの真っ直ぐな瞳に催促されて、少しだけ照れたように説明する。
「空の青と、湖の青。俺は見たことがありませんが、海という湖も、みんな青いんだと聞きました」
「だから、世界の色?」
 こくりと頷く。
「ふふ、ロマンチックね」
 自分を真っ直ぐに見つめる瞳は、大地――森の色だ。
 そして、ふとした思いつきに表情を弛める。
「左手を……出していただけませんか?」
「?」
 訳が分からないままに、ラムアは言われた通りに左手を差し出した。
 ティアがその手に、指輪を嵌めて微笑んだ。
「よく、お似合いです」
 ラムアが破顔する。
 このまま時が止まればいい。
 指輪は本当に小さくて、細い小指にぴったりだった。
「ティア、大好きっ」
 ラムアは本当に嬉しそうにそう言う。
 だが、時は止まらない。
 何があっても。
 流れが、変わることなど、決してない――

あとがき

2011年08月02日
初筆。
ティアは天然たらしでいいと思う。たらされているかは別として。

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