28章 綻びと架け橋 002

 この国に、不穏な空気が漂い始めたのが、今から十数年も前のことだ。
 その年は日照り続きで、農作物が不作になり、飢えに苦しむ者が続出した。疫病が蔓延し、国全体が飢餓に苦しんだ。領収達は、税の取り立てを厳しくし、領民達はより一層苦しい生活を強いられた。
 そんな悪循環から、皆が疑心暗鬼となり、こぞって自分と違うものを、排斥したがった。

 そんな折、一つの噂話が貴族達の間で囁かれ始めた。
 王の六番目の娘は、瞳の色が左右違う、呪われた子供である、と。
 この時幼い王女は、まだ公の場に出たことが無いはずであったが、どこから漏れたのか、特異な王女の外見は、たちどころに国中に広まり、城には、何人もの人が殺到した。
 皆は、声高にその子供の処分を訴え、一部の過激派は反逆罪で捕らえられた。
 そんな退廃的な年は多数の死者を出し、幕を閉じた。

 その翌年からは豊作が続き、国は安定した。
 時間が経ち、一旦は落ち着いたかのように見えた騒動だったが、民の心の片隅に、不安は残った。
 民の前に姿を現すことは稀であったが、第六王女は城で行われる行事に参加する度に、話題になった。
 特別扱いされている訳では無かったが、異端視され、彼女はいつも一人ぼっちであった。

 そして、ある出来事をきっかけに、暴動が起きたのだ。
 王は苦渋の決断を迫られ、そしてそれを実行した。
 だが事の真相を知るものは僅かで、混乱の中、たくさんのものが失われた。
 その混乱を収めたのが、現在の第一特殊部隊の隊長であるサーファ・スティアスであった。その時は、隊長では無かったが、その功績を評価され、彼は異例の昇格をし、空席だったその役職を与えられたのだ。

「お母様……」
 大きな窓とそこから続く広いバルコニー。
 そこは、本来ならば暖かな日の光と爽やかな風が心地良い部屋だった。
 だが、今、その窓はしっかりと閉め切られ、バルコニーに出る者もいない。
 窓に掛けられた厚いカーテンが、外界との繋がりの一切を拒んでいるようでもあった。
 そんな閉鎖された部屋にいるのは、独りの少女だ。
 外には恐怖が満ち溢れ、少女はそれに怯えながら、長い一日を何度も繰り返していた。
「あい……た……い」
 そんな願いはどこにも届くことは無く、闇に消える。
 その暗い室内にあるのは、大きな一枚の肖像画だ。そして、そこに描かれているのは、長い金色の髪の女性だ。
 簡素過ぎない程度に着飾ったその女性(ひと)は、とても綺麗な紅い瞳をしていた。
 穏やかに微笑んだその人を、少女は見つめる。
 そのたった一枚の肖像画のみが、少女の希望であった――

あとがき

2011年07月27日
改訂。
ごっそり削ったら、台詞が全然無い。
アリアス国の近代史。
2006年08月28日
初筆。

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