13章 仲直り 001

「……その木で右に曲がって、次の大きな岩で左。それから……」
「ルゥ、言うのが早いわ。忘れてしまうじゃない」
 ラムアの非難にルゥは大人しく従うことにする。
「あ、ごめんなさい」
「いいの。暫く走っていなかっただけだから」
 少し前まで彼女は心の壊れてしまった人形のようだったのだ。
「ラムアおねぇちゃんは……どこにいたの?」
「……色々。お城のあるアリアスにも行ったし、他の国にも行ったわ」
 彼に連れられて。
「ボクも。一座のみんなと色んなところに行ったよ」
 昔のことを思い出すルゥはとても幸せそうだった。
「あたしと同じね」
 ラムアが笑いかける。
 その瞬間、強い鼓動が伝わる。
「あ! 止まって! 急いで戻って! 早く!」
「え?」
 ティアは急いでラムアの手を取り、来た道を戻る。
 魔法の反応があったのだ。
 そこにいる――
「そのまま真っ直ぐで、早く!」
 気配は近い。
 すとんと白銀の男が一人、地に降り立つ。
「何が」
 短く問うたと同時に、森が開ける。そこは白木の世界。白樺という樹皮の白い木が、その場を取り囲むようにして天に伸びていた。
 その中心に天使がいた。
「ティア」
 彼は美しく微笑む。
「会いたかったね」
 そう言った瞬間に彼の顔色が変わる。
「お前は」
「まさか……。それが……ラムアちゃん!?」
「そうよ。あたしがラムアだけど、あなた誰?」
 エメラルドの瞳が鋭くなる。
「君は死んだんだろう!?」
 その問いは、ずっとティアの中にあったものだった。
 でも、怖くて訊けなかった。
 だから、まだ繋いだままの手を強く、強く握った。
「……? 誰か知らないけど、でもその言い方だと、あたしがお化けみたいじゃない?」
 その手を、ラムアもしっかりと握り返す。
「あたしは一度も死んだことなんてないですー」
 その答えに安心する。そして言う。
「ルイザ」
「……あぁ、そんな名前だったね」
「ラムア様を侮辱することは許さない!」
「許さない? 何が出来る……君なんかに、何が出来るっていうんだ?」
 ルイザの黒い瞳が、真っ直ぐにティアを捉えていた。
「君は笑わない。今も昔も。遠い過去に、笑うことを忘れてしまった」
 ルイザはそのまま言葉を続ける。
「ティアは……何も出来ないよ。出来なくていい。僕を傷付けても……何も出来なくていい」
 それは、今にも泣きそうな、悲痛な表情(かお)だった。

「……」
 違うかもしれない、だけど……。
「リネ」
 全てを知っているのは彼女だけだ。
 ルイザは、はっとしたように顔を上げる。
「ごめん。俺が悪かったんだ」
 初めに気が付くべきだった。だけどずっと過去から逃げて、全てを封印し続けていた。
「またお前を、傷つけて」
「ティアの馬鹿……」
 ルイザはぺたりとその場に座り込む。
 今は、ティアの顔を見れない。
「泣いちゃ駄目だよ、ルイザおねぇちゃん」
 いつの間に移動したのか、ルゥがルイザの前に立っていた。
 そしてぽんぽんと頭を撫でてやる。
「もうご用事は終わったの? 終わったんなら、また一緒にいられるね」
 ルゥはにこにこしている。
「ルゥ」
 駄目よ、と言おうとして、遮られる。
「ルゥちゃん……」
 ルイザはルゥの顔を仰ぎ見る。
「あ、そだ」
 ポケットからハンカチを出してルイザの顔を拭いてやる。
「女の子は綺麗にしないと駄目なんだよぉ?」
 ルゥにつられるようにしてルイザは微かに口元を緩めた。

「リネ。これからは俺と一緒にいないか」
「え」
 まるで愛の告白のような言葉だが、本人は気付いていない。
「俺と一緒にいるのなら、こないだのことは許す」
 だから――
 ルイザは微笑む。
「……ティア。大好きだよ」
「俺もだ」
 そう即答される。
「なっ……」
 ティアの言葉にラムアは絶句した。
 そしてルゥは万歳をして喜んでいた。

あとがき

2011年06月07日
改訂。
ルイザはティアの唯一の友達です。
2005年12月08日
初筆。

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