39章 魔剣 002
ティアとルゥはそれぞれの剣を鞘から抜き、相対する。
「あまり時間は無いだろうが……身体で覚えるといい」
「うん、全力でいくね」
ルゥには大きすぎる剣ではあったが、やはりこうして構えると軽く感じる。
これも、この剣の力なのだろうか?
そう思いつつ、先程見たティアおにぃちゃんの構えを思い出す。
しっかりと柄を握り、紅い石の位置を確認する。
まだ手が小さいルゥでは、普通に持つと紅い石は届かない。
少しだけ持つ位置をずらし、再び構える。
紅い石はルゥの指で少し隠れてしまったが、それは光を失うことなく輝いていた。
「いくよっ」
ルゥは地を蹴り、ティアの方に駆け出す。
ティアはそれを軽く受け流す。
今は、基本的な剣の練習だから、力は出せなくてもいいのだが、でもどうやったらこの剣の本来の力を出せるのだろうか。
きっとこの力は自分の支えになるだろう……。
「もっとちゃんと相手を見るんだ」
「……っ」
ティアが少し力を入れて押し返しただけで、よろけてしまう。
頭では分かっていても全然身体がついていかない。
悔しかったが、だからと言って動けるようになる訳では無い。
何度も、何度も攻撃を繰り返す。
「足元が弱い」
「うっ……」
今までろくに剣なんて持ったこと無いのだから仕方が無い。
手加減されていると分かっていても剣劇を受ける度に手は痺れるし、足元もおぼつかない。
呼吸が乱れ、集中力すら途切れてしまう。
「世界を救うんじゃないのか」
「……!」
まさか、ティアが先程の言葉を信じているとは思っていなかったルゥは、驚いたように顔を上げる。
「す、救う……っ」
「だったら」
ガキンと鋭い金属音が響く。
汗が髪を伝って流れ落ちる。
「もっと強くなるんだ」
ルゥはもう一方の手で支え、押し返す。
「弱いということは、大切なものを失ってしまうかもしれないということなんだ」
腹の底から押し出されたような声で告げる。
「大切なもの……っ」
そんなの失ってたまるか。
だってボクは……。
「ボクは……」
ぜいぜいと息が苦しい。
「守るって……決めたんだっ!」
そう叫び、薙ぎ払う。
ティアは後ろに飛び退き、切っ先を避ける。
「大好きな、みんなを失いたくはないから……」
ルゥは膝をつき、剣を取り落す。
ぽたぽたと地面が濡れた。
汗と一緒に流れるのは……。
片方の手をそっと顔に押し付ける。汗か涙か、自分でも分からなかったが、腕で全て拭う。
「ありがとう、ティアおにぃちゃん」
顔を上げてそう言った。
正直言って、使ったことも無い筋肉を使ったせいで身体が軋んでいたし、まだ呼吸は荒いままだったが、自分が知りたかったことは教わったはずだ。
あとは、これをどう生かすか、だが……。
「なぁ、ルゥ」
ティアは平然とした感じで立っていたが、思い出したかのように訊ねた。
「ラムア様とロナ様は、助かるだろうか」
そんなこと訊かれると思っていなかったが、ルゥはこう即答する。
「ボクは、みんなが笑っていられる世界を取り戻そうと思っているんだ」
息が上がっていて、まだ声の調子は取り戻せていなかったが、それでも自分なりにははっきりした声音で言ったつもりだった。
少しの間の後、ティアは笑う。
「俺も、その世界が来ればいいなと思う」
そう言ったティアおにぃちゃんの表情は清々しくて、何だかすごくかっこよく見えた。
あとがき
- 2014年08月28日
- 初筆。
ルゥとティアはすごく仲良くなれそうな気がする。