異なる者 55章〜家族〜
ラムアは、罪の赦しを乞う人間のように、全てを吐き出した。
今日の出来事、そして暫く前まで一緒にいたことを―――
「サーファは私によくしてくれる。……どうしてかは分からないけど」
「それは」
知っている。
兄の優しさを。
「君が可愛いからだよ」
ルイザは儚く微笑んだ。
「……?」
ラムアはその真意を探るように、ルイザを見つめる。
その面差しはどこか、彼と被る。
「……まさかっ、貴女が…妹……?」
彼女は何も答えない――答えられない。
「昔話をしよう」
彼女が言う。
返事をする前に、それは始まった。
「あるところに、仲は良いが、貧しい家族が住んでいました」
その家族は、両親と、二人の兄妹でした。
彼らは少し遠い昔、ある騎士の一族だったんだけど、いつしかそれは遠縁となっていた―――
ルイザの表情は掴めない。ただ、楽しそうではないとだけわかる。
「ある時、その両親が盗賊に殺されたんだ」
父親が彼らに立ち向かい、そして母親が裏口から兄妹を逃がした。
親族はおらず、兄ですらようやく十を越えたところで、全く食い渕なんてなかった。
兄は妹を養うために必死で働いた。けれど、働き口も少なければ、稼ぎも少なく、その日二人が食っていくので精一杯だった。
でもね、彼らは魔法を使えた。兄の方は幼い頃から父について、剣の練習もしていたんだ。だから両者共に、それなりの力を持っていた。
そしてある時彼は思い至った。
軍に入ればいい、と。
そうすれば生活も余裕が出てくるからね。
その時既に三年もの時が流れていた。
「兄は都に行ったんだ。妹が寝ている隙に家を出た。当面、妹が住み込みで働く代わりに、面倒をみてもらえるように計らってからね」
銀の髪が目元にかかる。
表情は読めない。
たとえ読めたとしても、それが本当か、嘘かだなんて誰が知っているだろう。
「朝起きて、たった一人っきりの家族が、何も言わずにいなくなっていたんだよ」
それがどれほどの絶望だったか―――
彼女はその雇い主を問い詰めた。そして、その人は大分渋っていたんだけど、どうにか聞き出し、妹は兄を追った。
兄の方は、その魔力の高さと、複数の方面に秀でた才能の将来性を買われ、そして軍に入った。
「足手まといにはなりたくなかった」
きりっと拳を握り締めて、心なしか、ルイザは震えているように見えた。
「それでも彼女は兄に、一度だけ会った」
でも、彼は一瞥しただけだった。
優しい言葉も何も彼は持ってはいなかったんだ。
そんな兄を見て、妹は何も言えなかった。
兄が去った後も、ずっとその場に立ち尽くしていた。
夜になって、ぽとりと地面に水滴が落ちたんだ。
その日は一晩中雨だった。
「おかしな話だよね。彼女は諦められなかった」
だから今でも、兄を追っているんだ。
「残虐で非道って言われてるけどね……でも…時折聞こえてくる噂の中のあの人は優しいんだよ―――」
ルイザは黙り込んでしまう。
「あれ…雨だね……」
ふいに顔を上げたルイザはそっと言う。まるでガラス製品を扱うように静かに。
その背中が妙に痛々しい。
「ホント…」
どんなに空を見上げても、雨なんて降っていないのに、ラムアは言う。
「帰らないとね」
ぼとぼとと、ルイザの足元にに染みが広がる。
「……」
ラムアはそっと前に進み出て、背中から彼女を抱き締める。ルイザの方が背が高くて、顔をルイザの背中に押し付ける形になる。
体温と共に、彼女が小さな汚咽を必死で堪えているのが、背中越しにわかった。
「貴方のお兄さんが、貴方に宜しくって。その時彼は、綺麗な思い出に、何重にも鍵をかけて大切に守っているように見えた―――」
泣いていいの、と、まるで母親のような優しさで、硝子の彼女を労る。
それは、彼女が長い間失っていた温かな腕だった―――
2006.1.13
*あとがき*
強くて脆い子。
【異なる者】
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