17章 閉ざされた村の秘密 001

「ウョキ ンハウユ ニナ?」
「ナカサ デヤ」
「ンサイジ タキテッツ」
 どの方向に注意を向けても、この怪しい声が聴こえてくる。
「不気味……」
 彼らはとある森の中の、ある村の前にいた。
「サア ンパ ナラカヤ」
 ルゥは背の高い三人を見上げる。
「どうかした?」
 ラムアが気付いて、声をかける。
「えっと……」
 ルゥは言いよどむ。
 ティアがちらりとそちらを見て、手を差し延べた。
 ルゥの表情が喜色に染まる。えへへっと笑って、その手を握った。
 ティアおにぃちゃんの手は、大きくて温かい。
「ありがと」
「別に」
 ティアおにぃちゃんはそっけなかったけど、優しかった。
 ラムアとルイザは、不思議そうに顔を見合わせる。
「行こう」
 先頭はティアとルゥ、その後ろにラムアとルイザが続く。
 日は、間もなく落ちるところだった。
「すみま……」
 どこかの納屋でも借りようかとして思い止まる。
 ようやく見付けた人は、明らかにおかしかった。
「ちょっと、何アレ!」
 失礼にあたらないようにと、小声でルイザは抗議する。
「し、知らないっ」
 ティアを除く三人が、顔を近付けあって緊急会議を開く。
「アレ……逆でしょう?」
「うん……」
 村の広場の脇を歩いていた人達の進行方向がおかしいのだ。
「……」
 ティアなど、呆れて物も言えずに硬直してしまっている。
 開いた口が閉じられないとはこういうことか。
 なぜならその村の人たちは、何の違和感もなく、後ろ向きに歩いていたのだから。
「ダンナ ライマオ」
 逆さまに歩く男が、四人に気付いて、後ろ向きに近付いてくる。
「ど、 どうすんのよ!」
「そんなの僕が訊きたいよ……!」
「ボクちっちゃいから、無理だもん……!」
 三人は慌てて小声で先頭の譲り合いをする。
「ライマオ トビビタ カ?」
 やっぱりというか、何というか、男の言葉は聞き取れない。ただ男が操るのは、アリアス国公用語のアリアス語ではないことだけは分かる。
「えっと……ボク達、旅をしていて……」
「今日はもう遅いので……」
「どこかに泊めていただきたく思いまして……」
 絶対に伝わらないと確信しながらも、ルゥ、ルイザ、ラムアの順に説明した。
「ニナ ルテウイ カ?」
 何か質問された気がするが、訊きたいのはこっちである。
 それに何より、人の、背中に向かって話しかけるのはかなりの違和感がある。
「ヤ、ヤド カシテ」
 我に返ったティアは、とりあえず雰囲気だけでも相手の言葉に合わせてみることにする。
「メシ クイタイ」
「ゴハン ゴハン」
 手振り身振りを加えて、盛大な説明である。それを男が必死に解読する。
「アウ! シメ? ルネ?」
 何だかよくわからないが、多大なる努力の結果、どうやら男は何かを掴んだらしい。
 四人がうんうんと必死に頷くのは、異質な光景に見えるが、ティアのジェスチャーを含め、恐らく男には見えていない。
「チウ イコ!」
 男は嬉しそうに、一番近くにいたルゥとルイザの手を引っ掴んで、歩き始めた。
「えっ、えっ?」
「チウ ンカオ シメ イマウ」
 本当によくわからないが、交渉成立ということだろう。
 ラムアとティアも慌ててその後を追った。

「レダ レソ?」
 どうやら男の家らしい建物の前に辿り着いた時、中から女が、やはり後ろ向きに出てきた。
「トビビタ ンケャジ。コドネ ト シメ イウヨ ムノタ」
「タッカワ」
 男は簡潔に説明し、女は嬉しそうにどこかへ行ってしまった。
 やはり、背中合わせの会話は違和感がある。
「ねねっ、一言でも意味が分かった人……?」
 ルイザの小声の問いに、ルゥが手を挙げる。
「分かると言っても何となくこういう意味かなってくらいなんだけど。とりあえずは、喜んで、ご飯と寝床を用意してくれると思うよ。意味をとるには、もうちょいかかるけど……」
「え! 凄い!」
 ラムアが小さな拍手を贈る。
「一定の法則があるとは思うが……」
「ライマオ クヤハ レイハ」
 とりあえず、呼ばれたので、四人はめいめいにおじゃましますと言って、扉をくぐった。
 男の家は驚くほど広かった。
 自然の洞窟をそのまま利用して作った家で、衝立を置いて、幾かの部屋に区切ってあるのだ。質素だが、生活に必要なものは全て揃っており、何も不自由することはないように思う。
 ナリクッユ、と言って男は再び外に出ていった。
「チタンャチンア レーダ?」
 まだルゥよりも小さな子供達が、全部で六人これまた後ろ向きに駆けてくる。
「え、えっと……」
 ティアは助けを求めるように、ルゥを見る。
「ボクはルゥ」
 ルゥが彼女らに笑いかけた。
「ルゥ?」
「そう」
「イタア チィ」
「チウ ニー」
 口々に自己紹介をした後、気付いたら部屋中にいい香りが立ち込めていた。
「いい匂い……」
「これはシチューかなぁ……? 」
 くんくんと鼻を動かすのは金髪二人組だ。
「いいわね。あたし好きよ」
「ボクもボクもー」
 その周りを、少女達が後ろ向きにぐるぐると駆け回っていたのは、ちょっと異様な光景だった。

あとがき

2011年06月21日
改訂。
2006年01月17日
初筆。
ちょっと突拍子もないのが書きたかった。
ところで、この村の言葉分かります?
後ろ向きに歩いてぶつからないのか心配。

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