37章 紅い瞳の願い 003
時は遡る。
ござるによって王家の秘密が露見した後、ラグがその説明引き継いでいた。
「そして、そこで眠る姫君についてですが、彼女は深い眠りについています。今無理に起こすことは、出来ないでしょう。だが、時が来れば恐らく目も覚める」
「ラムア様……」
ティアはラムアの手を取り、ぎゅっと握る。サーファは、その様子を横目で見ながら問う。
強い吐き気がしていたが、それを表には出さない。こんな下らないことで、妹に心配を掛ける訳にはいかない。
「時、というのは?」
「それは」
ラグの答えを遮り、自分の出自を聞いてからずっと黙っていたルゥが答える。
「彼女の見るべき夢が終わったら……」
みんなは、驚いてルゥを見た。
ただ一人ラグは、そのことを気にも留めていないようだったが、しかし誰もその事自体に気付かない。
皆の視線は、この小さな第一王子に集中していた。
「ルゥ?」
ルイザが不安そうに、隣に座るルゥの手に自分の手を重ねる。
「行こう」
唐突にルゥが言った。反射的にルイザが返事をする。
「え、行くってどこに?」
「呼ばれてるんだ」
「呼ばれているって……?」
ルイザは訳が分からずに、何度も問い掛ける。
「どこに行くの?」
ルゥは足の上にかかった布団を避けて、ベッドから立ち上がる。
ルイザの手からルゥが離れ、手を伸ばす。
「どこに行くつもりなの」
ルゥは振り返っただけで何も言わない。その手は空を掴み、そのまま膝の上に落ちる。
それを見計らったかのように、ラグはこう提案する。
「これからは別行動です」
ラグが告げ、ルゥは地図を覗き込んだ。
「別行動だと?」
ティアが低い声で問う。
「三手に別れましょう」
ルゥが頷き、サーファが眉を潜める。
「三手?」
「ええ、そうです。これが、世界を終わらせない為に最善の方法でしょう」
「まず、ボクとサーファお兄ちゃんはアリアスへ」
ルゥは地図から目を離さずに、告げる。
「それから、師匠とティアお兄ちゃんがラジェンへ。そして残りはここで、ラムアおねぇちゃんが起きるまでついていてあげて」
だがその言葉が終わる前に、猛反発を食らう。
「何だよその分け方」
「俺はラムア様の傍を離れない」
「失礼ですが、その割り振りにはどういった意図が……?」
「ルゥ?」
だが、ルゥはその問いには答えず、ラグを促す。
「……各々にやるべきことがあります。これが、今出来る最善の分け方です」
ラグがそう言い、ルゥが同意する。
「従えない場合は、世界は終焉へと向かうでしょう」
「……」
「でも……」
ルイザの抗議は声にならず、その場に消える。
「ティア・セオラス殿。これは、そこに眠る貴方のお姫様を助けるチャンスですよ」
ラグは口元を微笑ませて告げる。
「そして、ここにはいない、もう一人の王女様を」
それが誰のことを指すのか、それは明白だ。
ティアは弾かれたように、顔を上げると、低い声音で問い掛ける。
「……助けられるのか?」
それは最低限必要な確認事項であった。
「貴方の努力次第でしょうね」
ティアは、強く拳を握り締める。
だがすぐに答えを出す。
「……分かった。従おう」
「ティア!?」
ティアは大股でベッドの方に近づくと、声を上げるルイザの手首を握る。
「ルイザ行くぞ」
「ええ……ちょっとっ」
ルイザは手首を捻って抵抗するが、それなりに鍛えているティアの手を振り解くことは出来ず、手を引かれて無理矢理立たされる。
「ティア」
嫌がるルイザではなく、ラグに問う。
「詳細は?」
「ラジェンにある巫女の神殿です。恐らく、移動の魔法では都心近郊に行くのがやっとでしょう」
「……ちょっと待ってよ。どうやってそんな遠くまで行くのさ」
勝手に話を進めるティア達に抗議の声を上げる。
「その移動の魔法って、もしかして僕が使うとか言うんじゃないだろうね」
「?」
ティアは、ルイザの疑問の意味が分からずに振り返る。
「無理だって! そんな、行ったこともない場所!」
それを聞いたラグは、その答えを予め予想していたようだった。
「やはり、そうでしたか」
「そうなのか?」
「そうなの! 転移の術は、万能だけど、でも術者の知識が追い付かない場所は無理!」
「じゃあ……徒歩か馬か」
「ご安心下さい。私が、お二人をラジェン中央部付近までお送り致しましょう」
困った様子の二人に、ラグがそう提案する
「え?」
「本当に行けるのか?」
「ええ、神殿には恐らく結界があるので無理ですが、その近くまでなら」
にこりと微笑む。
ティアとルイザは一度顔を見合わせてから、その提案を受け入れた。
あとがき
- 2013年09月03日
- 初筆。
色々不穏。