12章 真実 001
「団長っ……団長っ!」
運ばれてきたその人は眠ったように気を失っていた。
いくつもの顔が彼を見ていた。
歳も、外見も様々だが、彼等にとってその人は父親同然だった。
「すみません」
そう言って割り込んで来たのは絹糸のような美しい銀髪の、綺麗な男の人だった。
「少し、診(み)せて下さい」
どうやら彼は医者のようで、年上の者達の指示で、子供達は団長の側を離れた。誰も、何も言わなかったが、その様々な色の瞳は不安げに揺れている。
その間も医者はテキパキと脈を採り、検温し、そして瞼を見て、全身を検分した。
「……ふむ」
額に指を当て、考える。
「魔法……か」
そう小さく呟いて、彼は団長の顔の上に手をかざした。
「……捜探(ディウルース)」
何かを探し当てるように、かざした手をゆっくりと動かす。
「術者の願望にもよるが……」
危ないな……。
「一人」
振り返って代表者を一人呼ぶ。
「団長は……」
代表として医者の隣まで来た、一番年上のハルジはすぐに容態を訊ねようとする。だが医者は、ハルジの言葉を遮り、説明を求める。
「まだ判断はつきかねるよ。だからこうなる前のことを話して……ね?」
優しく嗜(たしな)められ、ハルジは顔を赤くして俯いた。
「えっと ……」
ルゥのこと、それからルゥの送別会代わりの今日の催し物のこと、ルゥの引き取り手である金髪の女性と黒い装束を着た男が朝の公演後、団長と話していたということを詳しく伝える。しかし、彼女と団長がどんな知り合いかは知らず、彼女達がいるその天幕は人払いをされていて誰も近付いていないということも包み隠さず話した。
「その金色の髪の女性は今どこに?」
そう問われて初めて気付く。
「……そういえば……」
混乱に紛れてはぐれてしまったのか。
「ルゥもいません」
金髪の女性の話が終わるまで、別の天幕に待機していたはずだったが、もしかすると、まだ天幕の(あの)中に……?
ハルジの顔がさあっと青ざめる。
「落ち着いて下さい。広場にはもう誰もいません。あそこにいた人は皆無事に救出されました。それは軍が確認しています。なので、ここにいないのならば、自力で離れたということです」
そんなに頭の賢くないハルジはそれを聞いて少し安心したようだった。
「……」
医者は黙り込んでハルジに聞いた情報を整理する。
混乱に乗じて逃げ出した犯人一味。何か鍵を握る紫の瞳の子供。そして目覚めない一座の責任者。
彼等が何を考え、どんな目的で動いたか。
「様子を見ましょう」
それだけを告げ、彼はその場を後にする。
考えるべきことが沢山あった。
真実はたった一つしかないはずだから。
それを誤り無く見定めなければならない。
そうでなければ彼は、あの人の元へは辿り着けはしないのだから。
あとがき
- 2011年06月03日
- 改訂。
- 2005年11月22日
- 初筆。