13章 仲直り 002
「リネ……まさかずっと俺を探していたとか」
リネ――ルイザが行動を共にすることになった途端に、ティアの口数が増えた気がする。
「あー……それ偽名なんだよ。気まぐれでつけた」
あははっと笑ってそう言った。
「ぎ、偽名……?」
「ルイザでいい」
今は。
「その、ルイザって言うのが、本当の名前か……?」
ルイザはにこりと微笑む。
「あ、それも」
「……」
ルイザは何事もなかったかのように言葉を続ける。
「ルゥもルイザって呼ぶんだよ? さっきみたいに呼んだら」
ルイザのとびっきりの笑顔は怖い。何だか邪心をいっぱい含んでいそうだ。
「んーわかった」
だがルゥには通用しないらしい 。
「るいざぁ」
嬉しそうに口の中で反芻する。
今はお昼ご飯をとっているのだった。
「あ、そうそうさっきの答えね。うん、ずっと探していたよ。んと、アリアスでティアを見付けたんだけど、やっぱり城には中々入れなくって、どうしようかと思って機会を窺っていたら、ティアが急に旅立ってしまったから、慌てて追い掛けたんだ」
「そうだったのか……」
「んで、色々準備をしてお姫様に近付いた。……そういえばごめんね。面と向かって、ティアに覚えていないって言われるのが怖くて……だから君を試した」
自分を置いていってしまった、ティアに見つけて欲しかった。
「まぁ本当に覚えていなかったみたいだったけどー」
少しだけ責めるような口調で言う。
「それはお前が変わっていたから……髪の色だってそんなんじゃなかっただろう?」
「まぁね。染めているだけだけど」
ルイザは空いた手で髪を弄ぶ。
「でも、ホントにごめん」
「否……俺はもう気にしていない。それにさっき許しただろう?」
「それは……彼女が隣にいるから?」
弾かれたようにルイザの顔を見る。
「ルゥ、口からはみでてるでしょ!」
「ほんなほとなひよ」
「ものを食べながら喋らない!」
ラムアの躾(しつけ)は結構厳しい。
「……はーい」
そんな会話が遠くで聴こえる。
――ティアっ。
弾ける笑顔と、ころころ変わる表情。
――アレハダレ?
「ティア?」
どうしたの、と顔を覗き込まれる。
「あ……何でもない。……ラムア様はラムア様で、俺は俺だ」
まだティアは心の底から笑ったりはしない。
「そう、だね」
そう言って、ルイザはサンドイッチにぱくりと齧(かぶ)り付く。
あとがき
- 2011年06月08日
- 改訂。
- 2005年12月09日
- 初筆。