23章 光と影の夢 003

「あら、ルゥ。起きたのね」
 ひらひらとラムアが手を振る。
「うん」
 ルゥとルイザは連れ添って歩く。
「丁度今、二人の服を見ていたところでござるよ」
 そう言って、ござるが差し出すのは麻で出来た、鮮やかなオレンジ色のストールだ。
「わぁ綺麗!」
 ルゥがそれを受け取り検分する。
 それは細かな刺繍があって、とても綺麗だ。
「東の土地の者は、こういう風通しの良い格好の者が多いそうだ」
 ティアは、荷物持ちとして端に控えていた。
「へぇ」
 ルイザが興味深そうに、市場の軒先に飾られた色とりどりの布に手を伸ばす。
「ルイザおね」
「ルゥ」
 ルゥの言葉を遮るように、ルイザが微笑む。
「……師匠」
 ルゥは心なしかしょんぼりして、言葉を改めた。
「なぁに、ルゥ」
「これ、師匠に似合うと思うよ」
「え?」
 そう言って差し出すのは、明るい空色の生地に藍染めの模様が入った服だった。
 ルイザは瞬きをする。
「帯はこっちの濃い色の方がいいんじゃないかな」
 ルゥは高い所にあったそれを、ござるに取って貰う。
「ね?」
 ラムアが、瞳を輝かせて追い打ちをかける。
「ホント、きっと似合うわ! ほら、一回着てみたら?」
「え」
 無理矢理押し付けられる形で、その服を受け取ったルイザは、呆然とそれを眺めた。いつの間にか、ラムアは店の人に試着をしてもいいかと訊いている。
「絶対似合うと思うな」
 ルゥは、ルイザを見上げてにこにこしていた。
 ルイザは訳も分からず、その場に立ち尽くす。

 そういえば、川で溺れて夢を見た。
 それは、とても、不可思議な夢だった。
 確かに覚えているのは、全身にずっと感じていた得体の知れない浮遊感だけだ。
 何か大切なことを見つけた気がしたのに、すっかり忘れてしまった。

 周囲には、濃密な花の香りが立ち込めていた。その甘い香りが全身を支配し、そして思考を惑わせる。
 いつの間に現れたのか、すぐ目の前に人がいた。
「……初めまして」
 その人が、その場でくるりと回って挨拶する。
 すぐ近くにいるはずなのに、何故だか相手の顔は見えない。
 その人物の、空気を含んで膨らんだスカートの裾だけが、印象に残る。
「誰……?」
「私は、貴女の影」
「か……げ?」
「あるいは、光でもある」
 それは、微笑みを含んだ声だった。
「影と……光……?」
 微笑んだままの、彼女の手が、そっと頬に触れる。
「そして貴女は私の光、そして影でもある」
 すぐ近くで、視線が絡む。
「……え? 貴女……」
 しっと人差し指を口元にあてる。
「まだ知らなくていい」
 夢か現実か分からないような 浮遊感の中、急激に意識は闇へと消え去る。

 起きた時には、サーファがいた。
 思いがけず、心配そうな表情(かお)をしていたから少し驚いた。
 そしてその夢は、とても印象的だったはずなのに、夢の中で出会った人のことは何一つ思い出せなかった。

あとがき

2011年07月12日
改訂。
新しく追加したシーン。翻弄されるルイザが新鮮でした。
2006年06月16日
初筆。

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