30章 憎しみの行き着く先の夢 002
「……兄さん! 兄さん!!」
「もう、止めるでござるよ」
遠くにいる兄に必死に呼びかけたが、聴こえるのは雑音ばかりで、兄の声は少しも聴こえない。
事態の全てを把握した訳ではなかったが、それでも、憧れの兄が、魔法を忘れただなんて、そんなことは有り得ない。
「兄さん! 兄さん!」
ルイザは、無我夢中で呼び掛け続けたが、もう小さな音すら聴こえない。
気を失ったルゥをベットに寝かしつけたござるが戻ってきてルイザを止める。
「離して! 僕が兄さんを助けるんだ!!」
取り乱したように叫び続ける。
「ルイザ殿!」
ござるは少しだけ迷ったが、思い切って、手を振りかざす。
甲高い音が鳴り響いて、ルイザは体勢を崩す。
頬を押さえ、背の高いござるを見上げる形で、驚いたように目を見開く。
「何……する……」
「落ち着くでござる。貴殿が取り乱してどうするでござるか!?」
「だって兄さんが」
「冷静になるでござるよ」
「でも」
「サーファ殿がどんな状況なのか分からずに動くほど愚かなことは無いでござろう?」
「……っ」
ルイザは、強く唇を噛み締める。
「とりあえず、そうでござるな……ラグ殿が戻るまで待つでござるよ」
確かに、ござるの言うことは正しい。
今すぐにでも駆け出し、兄のもとへ行きたかったが、どこに行けばいいのか全く検討がつかない。
あの得体の知れない
「……ごめん、なさい」
「……大丈夫でござる。拙者こそすまないでござるな」
もし、ルイザが取り乱していなければ、おそらく自分が、姪姫の為に、何かしようとがむしゃらに動いていたかもしれない。
「ルイザ殿は、ルゥの様子を見ておいてくれるでござるか?」
「……うん、ござるちゃんは?」
「拙者は、ラグ殿とティア殿、ラムア殿を呼んで来るでござるよ」
「分かった」
「くれぐれも勝手に動かないでいるでござるよ」
ルイザが頷くのを見届けてから、ござるは外に出る。
三人の現在の居場所は分からなかったが、とりあえず旧ゼアノス家に向かう。
「ロナ……」
ルゥの見た光景が本当ならば、ロナは今――……
どうか無事でと、切に願う。
あとがき
- 2011年08月03日
- 初筆。
ついにござるのターン(笑)
でも女の子に手を挙げるのはすっごい迷ったけど、保護者として、させないといけない気がした。