26章 侵入 002

「ご苦労」
 そう言って、肩を軽く叩くフリをして、鳩尾(みぞおち)を殴り、見張りの兵士を昏倒させる。
「その人達は大丈夫なの?」
「気を失っているだけだ。そのまま転がしておけば、そのうち気がつくだろう」
「ならいいのですけれど。貴方……隊長ったら容赦がないんですもの」
 何だかんだ言っても、二人共楽しそうである。
「いつもよりは手加減をしているつもりだが……。まぁいい。アレは、確かにこの先に?」
「はい、隊長」
 金色の髪をした兵士が言う。
「……急いだ方がいいな」
 遠く、呼び子の音がする。
「そうみたいですね」
 兵士は隊長の言葉に同意を示し、そうして駆け出す。
「置いて行きますよ」
 まだ、魔法は使わない。
 もう少し、このまま――……
「転ばぬように気をつけることだ」
 とか言った直後に、派手に転倒するのはお約束だ。
「……ロイド」
 呆れつつも手を貸してやる。
「ありがと……ございます」
 目尻に浮いた涙が可愛らしい。
「ドジは治らぬと言うからな」
 ぷうっと頬を膨らませて、恥ずかしさと怒りを露にする。
「心配は御無用ですっ!」
 少し笑って、彼女の手を引く。
「部屋の鍵はあるのか?」
「…………無い、です」
 少し青ざめたように呟く。どうやら眼中にすら、無かったようだ。
「やはりな。予想済みだったが」
 灰色の髪の男は苦笑する。
「鍵は……リヴィウス。リヴィウス・グラドが持ってると思う、けど」
「いい。僕を誰だと思っている? そんなものなくても、ドアくらい簡単に破れる」
「本当……?」
 不安げな声を遮るようにして言う。
「あぁ、簡単だ。この城は、魔法には弱いからな」
 不敵な笑みは、彼に似合っている。
「流石、隊長」
 つられて微笑む。
 目指すのはもっと奥だ。厳重に警備された、その奥にそれは眠る。

「何者だ!?」
「止まれ!」
 幾つかの声が、鋭く重なる。
 隊長と呼ばれた男は、容赦無く、見張りを薙ぎ倒して進む。
 城に侵入してから、まだあまり時間は経っていない。
 だが、そろそろ異変に気付かれるかもしれない。
「例の部屋は?」
「はい。後は、この廊下を突き当たりまで真っ直ぐに進めばすぐです」
「分かった」
 男は、そう返事をして見張りの前に立ち、そして囁くように告げる。
「催眠(ラゥ)」
 魔法で最後の見張りの兵士達を眠らせ、その奥にある重厚な造りの扉を見据える。
「破解(ジーアス)」
 ぱちりと指を弾いて、呟く。
 強い波動と、音が、その赤の扉を開く。
「少し派手過ぎたか」
 全然反省していない感じで言われたその言葉に、僅かに違和感を覚える。
 この国一番の実力を持つ彼には特に、問題が無いように思える。
 だが、その違和感の正体に気づく前に言う。
「場所は感付かれたかもしれないですね」
「だが、直ぐにズラかるさ」
 隊長はそう言って、にっと口の端を上げた。

あとがき

2011年07月21日
改訂。
2006年07月08日
初筆。
ロイドさん楽しい。

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